2011-01-01から1年間の記事一覧

じいちゃんが風呂嫌いなわけ

じいちゃんは風呂が嫌いだ。 今は一週間に一回、ばぁちゃんと温泉に行っているけど、一ヶ月入らなくても平気だと言っている。 じいちゃんはこう言う。 「いいか、キョンキョン。風呂に入るにはまず、服を脱がなくてはいけない」 そりゃそうだろ。 「若い頃、…

あやしいおじさん

あやしいおじさんが徘徊していると、近所の噂になっている。 頭には変な帽子をかぶり、上半身裸で、半ズボンをはいている。話しかけても、言っていることがさっぱり分からない。追いかけると、路地に入ったところで、消える。 宇宙人ではないか、という人も…

とうちきりんな頭の日本人へ

ただ、ただ、かなしい。 あなたたちは、本当に自分の頭で考えては発言していると思っているのかい。 いや、いや、その頭さえ、もうない。 ただ、ただ、かなしい。 ふかく、ふかく、かなしい。■李大統領、少女像撤去拒否…第2・第3設置も (読売新聞 - 12月19…

キョンキョンの潮干狩り

「キョンキョン」 じいちゃんが呼んだ。おれは寝転がって本を読んでいた。明日までにこの本を読んで読書感想文を書かなくてはいけない。 「マテ貝をとりに行こうか」 じいちゃんの声は間のびしている。 「な、なに、マテ貝ってなに」 「長い貝だ」 「長いっ…

二人で街を

たまには 二人で出掛けようか 危なっかしく手をつないでさ 二十五夜の月が西に傾くころ 街は夢の中 夜明けまでのしばしの時間 通りの真ん中を歩こう どんなにどんなに悲しくても 二人一緒なら平気 どんなにどんなに疲れていても 二人一緒なら また元気になれ…

圭太の島 1

圭太は跳ぶ。 圭太は跳ぶことが好きだ。歩くときでさえ、圭太は跳びあがるように歩く。 圭太が跳ぶ感覚を全身で味わうのは、山の頂上まで耕された段々畑の、上から下までを一気に跳んでおりるときだ。 海をのぞむ段々畑の、いちばん高いところから海にむかっ…

じいちゃんの小説

朝早く目が覚めた。外はまだ暗い。時計を見た。4時だ。 じいちゃんの部屋からカタカタと音がする。じいちゃんがパソコンを打っている。 おれは、そっと起き上った。じいちゃんの部屋をのぞく。カタカタの音が止まった。グビリと音がする。焼酎を飲んだな。 …

日にち薬

土曜日、カミさんが転んだ。 歯医者に行って、コンビニで食べ物を買って大江の須賀舞多海岸で食べて、そのあと下田温泉に行く予定だった。 須賀舞多海岸には急傾斜の階段がある。勾配はおよそ70度、高さは4メートル。 下から2段目でカミさんは転んだ。 …

髪を切る

おれの髪は、じいちゃんが切る。 新聞紙を3枚広げる。その真ん中に上半身裸になったおれが座る。 じいちゃんが電気バリカンで髪を刈っていく。新聞紙の上におれの髪の毛が落ちる。黒い、と思って見ていると、金色の髪が一本ある。おれはそいつをつまんだ。 …

縄文

遠いとおい昔に 縄文と呼ばれる文化があった しかし縄文とは 近代についた名だ 明治10年にE.S,モースは 偶然に大森貝塚を発見する E.S,モースは生物学の学者だった 考古学でも何でもない かれは貝塚から土器を持ち帰り 報告にCord Marked Pottery と書いた…

縄文遺跡から貝塚が消えたわけ

縄文の時代、確かに人は貝をよく食っていた。 貝塚は、縄文時代の証しのようにいわれる。だが、縄文の途中で貝塚は消える。 なぜか。 海の民がいて、山の民がいた。海の民の交易の品物は、ずっと貝だった。 ところがある日、貝を茹でている壺の底に白い結晶…

遊びを覚えたチビスケ

籐製の長椅子がある。 ずっとぼくが使っている。 この前にチビスケがやってくる。 チビスケは少し目を細めるようにして、ぼくを見る。 遊ぼうといっている。 右手を置く。チビスケが飛びかかる。 ぼくは手を引いて、チビスケにタッチ。 チビスケは部屋をぐる…

キョンキョンの釣り

「キョンキョン、たまには釣りに行こうか」 じいちゃんに誘われた。11月の、小春日和の、穏やかな一日だ。 「なにが釣れるの?」 「なにがじゃなくて、なにを釣るかだ」 ふうん、そんなものかね。 「キョンキョンは初心者だから、基本のガラカブを釣るか」…

豊作の柿

国道を走る。郊外のスーパーを過ぎると、田園風景が広がる。 どの家にもどの家にも大きな柿の木があって、どの家の柿の木にも朱色の柿が枝も折れるほどに実をつけている。 「どうしてだれもとらないのかなぁ」 キョンキョンが聞いた。 「とりたくてもとれな…

台風の朝 3

理科室の窓からは、校庭が見える。校庭の左側は、小高い山になっていて、町並みは、右手の方に広がる。家々が立ち並ぶ上空に黒っぽい点々が見える。こんな暴風雨の中、カラスが飛んでいるとは思えない。 トリサキ先生がおれのとなりに立った。 「カワラだ。…

台風の朝2

先に帰ってきたのは、タナカ先生だった。 「街はひどいことになってるよ」 折れた街路樹が道路に散乱していて、それが風にあおられて道路をすべっていく。 「やっぱり」とイクオがすぐに反応した。「気圧がぐんぐん下がっています。970まで下がりました」 お…

台風の朝 1

台風が近づいている朝。雨こそ降っていないが、雲は南から北へ猛烈な速さで飛んでいる。 中学の校門で、理科の教師が、もう、うれしくてしようがないといった満面の笑みでニコニコしている。 「おい、おまえら」と彼は生徒の一団にいった。 「なんとなくウキ…

科学的という迷信

キョンキョンの話 今日、学校で原発についての先生の話があった。 「原子力は、将来のエネルギーです」と、先生は話し始めた。 「地球は今、温暖化という問題に直面しています。なんとかしなくてはいけない。世界中のたくさんの科学者が、温暖化について警告…

予言

枯れた土地を やせた子どもが歩くだろう レンガ色の太陽が 壊れた家々を染めるだろう 乾いた風が 怒りにまかせて吹き荒れるだろう それから さらに 多くの人が 白い風となるだろう 哀しみとともに 怒りとともに 足下で たくさんの屍の砕ける音 暗闇で 静かな…

塩屋20周年記念「塩祭り」

ぼくらも天草に来て20年になる。 「プーリー」というインドカレーの店があった。彼とは、そこで初めて会った。 絵を描いてくれませんか、といわれた。天草での塩づくりの場所が決まったので、地域の人に説明をする。それには絵があった方がイメージしやすい…

タコのコラコラ煮

「キョンキョン、冷凍庫からタコを出しといてくれ」 おれが朝飯を食い終わって、茶碗と皿を台所の流しに持っていったときだ。じいちゃんがおれの背中に声をかけた。朝の7時半だ。おれはこれから学校へ行く。 「今夜は、タコのコラコラ煮にしよう」 コラコラ…

線を引く

思い通りの線を引くのは難しい。 きのう、写生大会があった。海岸に行って、防波堤と海と、その向うの島と島の上の雲を描いた。描いたそばから消しゴムで消したくなる。実際、消した。写生大会が終わるころには画用紙は、すすけたふすまのようになった。 で…

ダルメウナギ

じいちゃんのカレンダーに赤い印が付いている。今日の日付だ。 夕方にじいちゃんは出刃包丁を研ぎ出した。それも二本だ。 「キョンキョン、今夜は2時に起きな」 おれは宿題をして、作文を書いて、やることがいっぱいあるのに。 「懐中電気を二つ用意しなくち…

およよ組

なんかしらんけど、「およよ組」というのがあるらしい。 ときどきうちに電話がある。おれが電話に出ると、「あ、キョンキョンさんですか」といわれる。じいちゃんのおかげで、有名になったみたいだ。 どうも、話からすると、じいちゃんが「およよ組」の代表…

狐の嫁入り

宮崎は、重い雲につつまれていました。いまにも雨が降り出しそうです。 宮崎県庁前の通りには、宮崎各地の特産品を売るテントが並んでいます。 翌日の鹿児島は、雲が多いながらも青空が見えます。雨は降っていません。でも、桜島は黒い雲に覆われています。…

武闘派

じいちゃんとばぁちゃんは、週に一回温泉に行く。 「キョンキョン、たまにはお前も行くか」と誘われた。 「今日はお前のとうさんとかあさんの帰りは遅いし、たまにはつるんとしたゆで卵みたいな顔になるのもいいんじゃないか」とじいちゃんが言った。 「帰り…

展示会

5日間にわたる、じいちゃんの展示会が終わった。 「秋の陶芸祭り」に便乗させてもらったのだ。 「陶芸祭り」なのだから、当然来る人は焼き物を求めてくる。そんな人の中で、「おや」と思ってのぞいてくれる人は、10人に一人くらいだ。 おれも、連休の3日…

大鼻族

じいちゃんがナイフと彫刻刀で変な顔を彫っていた。顔の面積の半分が鼻なのだ。 じいちゃんは彫りながら、ぶつぶつ言っている。しばらくのぞいていたが、おれは指をなめて、そいつを眉にこすりつけてから、思い切って聞いてみた。 「だれの顔?じいちゃんの…

絶滅危惧種

先日、鹿児島大学の佐藤教授が来て「干潟の観察会」があった。 路木川と早浦川の二つの川の河口の外には、大潮の干潮時になると広大な干潟が現れる。 参加者はおよそ、30人。熊手やバケツを持って広い干潟に散らばる。 近所のおばさんがハマグリを掘ってい…

チビスケチビスケ

ネコというのは、水を嫌がるものだと思っていた。 しかし、チビスケはちがう。 台所の流しで水の流れる音を聞くと、どこにいても走って来る。そして、じっと流れる水を見ている。洗剤を置いていたカゴから洗剤をどけた。チビスケはそこから蛇口から流れる水…