2008-01-01から1年間の記事一覧

ゼム、ゼム、ゼノム。

ゼム、ゼム、ゼノムはおまじない わたしだけの おまじない うれしいときの おまじない 東にお月さま のぼるころ 今日の夕食 たべるころ ゼム、ゼム、ゼノムのおまじない ゼム、ゼム、ゼノムはおまじない わたしだけの おまじない かなしいときの おまじない …

ごめんなさいをいいたくて。

そっと玄関を開ける いつものあなたの靴 わざとカバンをぶつけたりしてあなたは台所でひとり ジャガイモの皮をむいている「コロッケつくるから あなたは玉ネギきざんで」玉ネギは目にしみて きざんだ玉ネギにあふれる「今日はしょっぱいコロッケになりそうだ…

海の嘆き

彼女は渚で貝を拾う。 巻貝や二枚貝や、それらの欠けたものや穴の開いたものを拾う。くりかえし拾う。 彼女は、今一人で生活する。 時間までも漂白されたような秋の光の中、彼女は拾い集めたたくさんの貝をひろげ、決して楽しいことばかりではなかった暮らし…

ほめごろしのよっちゃん2。

あのほめ殺しのよっちゃんが最近悩んでいるのだ 今日なんか冷え込んで、よっちゃんの居間の気温は8度だ。 よっっちゃんはズボンを2枚はき、マフラーを巻いて白菜と大根の鍋をつつく。 よっちゃんはこういうのだ おれってこれまでずっとほめてきたんだ なぜ…

充足ということ。

充足ということがあります。 「わたしにはこの湯のみ一杯の水をください。わたしはそれで充分幸せです」 モリアオガエルはいいました。 「おれには茶碗いっぱいだ」 トノサマガエルがいいます。 「わしにはどんぶりにいっぱいもらおうか」 ガマガエルはいい…

かなしみ

かなしみは 数えるもの お風呂で 二十かぞえたら あがりましょうね かなしみは 拾うもの 砂浜で この貝殻で なにを作りましょうか かなしみは 刻むもの 台所で おいしいハンバーグ 作りましょうね

海辺で。

海辺で 私は好きだ 昨日はあって 今日はないもの 潮流に運ばれる 流木 波が砕いた ガラスの破片 骨になってしまった 命の骸 私は好きだ 今日はあって 明日はないもの 渚に満ちる海 あなたの瞳にあふれる涙 風と光は今日むつまじく 私は好きだ 今日はなくて …

とぜんなか。

とぜんなか、漢字で書くと「徒然なか」です。 高校古典の教科書で『徒然草』がでてきたとき、天草の人たちは全国のだれよりも「徒然」の意味を深いところで理解できるのだろうと思ったものでした。なにしろ、古語が、音読みではあっても今なお日常語として使…

宇井純という人。

宇井純は杖をついた小柄なおじいさん 「いやあ、満身創痍ですよ」 にっこり笑って 杖を握りなおす OHPの透明フィルムにマジックで曲線を描く そして 水平線を一本 交わるところに 水鳥 曲線の高いところに 木 かいがいしくOHPを操作しているのは 大阪大学大…

誕生日前日。

誕生日前日 島の向うに夕日が沈み そのまた向うの海に夕日が沈み 海は北西の風に波立ち 太陽への道も途切れ途切れで 沈むまでにはたどりつけそうもない 島の向うに夕日が沈み そのまた向うの海に夕日が沈み いくつもの周回軌道は交錯し わたしは誕生以前の記…

鶴岡のばあさん 3

見えないものを作るいつもいっしょにいるのに 見えないものって なーんだ鶴岡のばあさんは今日も元気でした若い友人が一晩のライブ公演をつくろうと苦労しています。 フラメンコライブです。ギターリストと踊り手は福岡から来ます。カンテと呼ばれる歌い手は…

鶴岡のばあさん 2

今日、鶴岡のばあさんはよくしゃべった。 よう来た、まあ、はいれ。 わしな、昨日で満の90歳になった。それで思ったんだが、渡り鳥にすれば、もう、90回も海の上を飛んで行ったり来たりしたわけだ。 なんの、ツバメを考えてみい。タマゴから孵って、その…

鶴岡のばあさん。

鶴岡のばあさん 鶴岡のばあさんは一人暮らしだ。 山の上の家に一人ですんでいる。 「寂しかないか、だって。ぜーん、ぜん」 ほれ、デコポンが色づいてきたろうが。このデコポン、一個200円で売れる。 一本の木で100は実をつける。そ、2万円じゃ。その…

笑う女。

いつもの海に見かけない女性が座って釣りをしていました。 「アハ、アハハハ。ウキが沈んだ」 大柄だけど、動作はスムーズです。 「引いてる、引いてる。アハハハ」 座ったまま、フンとばかりに魚を抜きあげます。まさに、ごぼう抜き。 「アハ、ボラだ。猫じ…

羅生門・下人

下人の若者は、死人の髪を抜く老婆に激しい怒りを感じますが、 「飢え死にしないためにはしかたがないのだ。疫病で死んだこの女にしたって、さんざ、悪いことをしてきたんだ」若者は、考え、迷い、悩みますが、老婆の着物を奪って闇に消えます。http://www.a…

おやすみなさい

おやすみなさいお日さまはとうに沈みましたよ おはなしも いっぱいしました じゃがいもの皮をむきながら たまねぎをきざみながら それから みんなそろっての 夕食のときにも 海が入り江にあふれるように いっぱい いっぱい あなたが今日出会った たのしかっ…

龍が空をとぶわけ

龍が空を飛ぶわけ 浜辺に座って、爺さんが焼酎を飲んでいる。目は濁ってとろんとしていて、顔は酒焼けでてらてらと光っている。その爺さんが、龍が飛ぶことについて話をした。 梅雨の晴れ間の夕方で、空には不安定な夏の雲がひしめいている。 若いの、まあ、…

ちゃぶ台。

大人のための子守唄

ねむれ ねむれねむれ ねむれ 海の上には お月さま 浜辺は金色の光に満ちて ねむれ ねむれ ベラは岩陰で目をとじて フグは砂のおふとんで ねむれ ねむれ 鳴きつかれたコオロギは しっとりやわらかい草の上で ねむれ ねむれ 愛しい あなたは わたしの腕の中で

山と海と。

力持ちの男と女たちは 力を合わせて岩を動かした 冬至の日の出はあそこ 夏至はこちらいつから決まっていたの ずっとずっと前から おじいちゃんよりも前から山や海や風にくらべて 人間はあまりによわく 助け合わなくては生きていけない麓に暮らすものたちよ …

アマモと魚。

満月。

ロ、ロ、橋の下のコウロギです。 最近、橋の下が混雑してきました。 若者が増えました。ダンボールがカラフルになっていくので、それと分かります。先日は、「ヘルプ」と書いたダンボールが現れました。 かわいい若者です。いいえ、若者というには、年をとっ…

アルチュハイマー

そのおじさんは犬を連れて釣りにくる。 メバル専門。したがって、おじさんと出会うのは秋から冬にかけて。「やることがのうなったんで、釣りにきとると。 腕は痛い。足は上がらん。背中も痛い。それでも、口ばっかりは達者で、みんなからアルチュハイマーと…

さば。

散歩

散歩 二人が歌う フォォーイ、フォォーイ 雨の舗道を サンダル履きで 一人は右に 一人は左に傾きながら 二人は歩く 歌いながら 雨に滑りながら フォォーイ、フォォーイ 二人が夢見ていたのは 小さな喫茶店 コーヒーの香りあふれる店内 香りは舗道にまであふ…

ほめごろしのよっちゃん

ほめごろしのよっちゃん どうも影でささやかれているらしい。 でも、ほめるというのは、お世辞をいうのとはちがうのだ。 どこがちがうのかというと、ほめることは自分を認めつつ、相手を認めることなのだ。 お世辞は、自分を限りなくおとしめてしまう。 イギ…

雲がうまれるところ

風と 山と 雲と さらに 海と太陽と はたして きみはどれだろう南西の方角へと吹き抜ける 風か 地下深くのマグマに通じる血脈を持つ 山か 今日の偶然がつくる 雲か海は語らず 山は 空色の沈黙のまま 風が頬をなで ささやくきみはわたし わたしはたくさんの わ…

ハモの顔。

漁師さんからハモをもらいました。 それで、はじめてハモの顔をまじまじと見ました。 びっくりしたのは歯です。 上あごでは、周囲の歯は退化して、中央に一列、鋭い歯が並んでいます。 下あごには、先端に牙が2本。 こんな口でパクリとやられたら、どんな魚…

やさしさの系譜

やさしさの系譜 「やさしさ」ゆえに苦悩する若者たちがいます。 やさしさは、争いを好みません。 やさしさは、競争がきらいです。だから、すぐに譲ってしまいます。 それでも、いじめられます。 「そんなことでは、生きていけないのよ」 やさしいたましいは…

か・な・し・み

かなしみは かなしみは 煙のよう だって すぐに消えてしまうから かなしみは タンポポのよう だって すぐに白い綿毛となって飛んでいってしまうから かなしさは かあさんのよう なぜって そのあとは かあさんがすわっていたように あたたかいから