2012-01-01から1年間の記事一覧

 ネルのはなし

「嫌いだ、嫌いだと思っていればさ、すぐに嫌いなものはやってくるんだ」 木の上で、もしゃもしゃ髪のフランが言いました。 「好きだ、好きだ、いつまでもこのままでいたいと思っていると、あっという間にいなくなってしまうのさ」 ネルは寒い冬がいやでした…

サンタマリア館

今日は、今年の8月に新築・移転したサンタマリア館でのカミさんの朗読でした。 サンタマリア館のある有明町は、風が強く、冬まっただ中の天気です。そういえば、およそ400年前の一揆が始まったのは11月でした。一揆軍は、このすぐ近くの上津浦に集結し…

ウソ、あるいは政治

約束には何の元手もいらない。 守る気がないから。 「おい、ハラジイ。海に行ってこーんな大きな魚を獲ってこようと思う。ついては、海へ行くために100円貸してくれないか」 トオルは100円を持って海へと行きました。 海辺では小さなイワシの子どもが…

光のシャワー

朝方に大きな山が崩れる夢を見た 今日の一日はその夢から始まった 山がどうして崩れるの? 地震さ 地震はどうして起こるの? 大きなガマガエルがくしゃみをするからさ 大きなガマガエルってどれくらい大きいの? この国で一番大きな山くらい大きいのさ 長い…

椅子取り合戦

ネコは高いところが好きだ。最近は、パソコンの前のおれの椅子が気に入っているらしい。おれが立ち上がると、与作とチビスケのどちらかが座りにくる。しかし、椅子はせまい。 「おい、どいてくれ」 「いんや。どかね」となる。 「なら、どかせてやる」 「や…

ほめ殺しのよっちゃん 3

ほめ殺しのよっちゃんは、今夜はあったかいそばを食べた。 そばを食べ始める前に、布団の中に湯たんぽを放り込んでおいた。なにしろ、寒いのだ。夜は特に寒い。「寒いの、寒いの、飛んでいけー」と叫びたくなる。 でも、寒さは動かない。まるで、退場したと…

Wの発音

昔、高校生のころだ。国語の担当だった植村先生は言った。 「天草には京言葉が残っている。それは言葉だけでなく、発音も含めて残っている」 それを聞いて、ぼくはガラパゴス諸島を思い出した。進化の系統樹から切り離されて、今なお、何千年、何万年前の姿…

性善説と性悪説

人の性は、善か、悪か。 世界には大きく二つの説があります。 そう言われた。中学生の僕は、そうかと思った。 また、言われた。 日本は、単一民族の国家です。 日本は、農耕民族の国家です。 やはり、中学生のころだ。 それらがウソと分かるまでに30年かか…

巨大クラゲの怪

潮の引いた砂浜を歩いていて、こんなのに出くわすとドキッとする。 重量は30キロを超えているのではないか。写真で茶色く見えているのは、脚(触手)。この日は、こいつも含めて五個体を見かけた。近年、その大発生が話題になるエチゼンクラゲなのか。でも…

石書き

昔、葉書というのがあった。葉書(ハガキ)は今もあるが、今のものとはちがう。昔、人々は木の葉に文字を書いたのだ。この地方では、「字書き柴」と呼ばれていた。柴とは、葉をつけた小枝の総称だ。 葉書の特徴は、離れた人へ伝えられることだろう。たとえば…

願い石

どうも毎日鬱々としていていけない。 外界は日増しに寒くなってくる。この寒いさなかに総選挙だなんて、もっと寒くなるようだ。鬱々の原因の最大のものは、総選挙だ。 前回、少しは変えてくれるだろう、と思って民主党に投票した。ところがどうだ。今思えば…

ネコどうし

ようやく二匹のネコが共存関係になった。 ニイちゃんこと与作が台所に居を構えてから二カ月近く。台所から居間に侵入してからひと月。寒くなったので居間にストーブを置いたら、そのストーブのあちらとこちらでお昼寝。昼間の時間の半分は寝ている。それから…

誕生日のころ

だいたい3年に一度、誕生日のころに運転免許の更新がある。前回は3年前だったが、その前は5年だった。で、今回は、また5年に戻った。シートベルトの引っ掛け作戦が功を奏した。シートベルトは、カチンと差し込まない。肩に引っ掛けるだけだ。お巡りさん…

獣医の悟郎さん2

悟郎さんの話はまだ続く。 「いったい、だれが悟郎さんの「説」に反対しているんですか。その中心人物はだれですか」と聞いてみた。 「そりゃ、善久だな。善久ときたら、悟郎の言うことは正しい。しかし、やっぱ、コレジオは河浦だ、と言う。一足す二は三だ…

獣医の悟郎さん1

チビスケの頬がまた化膿して腫れた。 天草から熊本市内に拠点を移した獣医の悟郎さんに電話したら、今日、そっちに行くから寄ってみるということ。2時ごろになるというので待っていた。 悟郎さんは2時きっかりにやってきた。袋いっぱいのナスを持って。 「…

やさしさの王国

空には雲が浮かび 風が吹き 木の葉が舞い 一匹のアリの上に落ちる きみは一部始終を見た とうの昔にこの世界を離れた雲と 気まぐれな風と 春の芽吹きのために葉を落とす木と 突然の暗黒に戸惑うアリと きみは立ち止り そっとつまんで 木の葉を持ち上げる ア…

内なる時 

母は85歳だ。父が死んだ後、一人で暮らしている。昨日、首が痛いと言い出した。しばらく前から膝が痛いといって、整形外科へ通っている。今朝、病院へ行くため迎えに行っての車の中でのこと。助手席で独り言のように話し始める。 「昔はなんであんなに早くに…

大陶磁器展

何回目かの大陶磁器展。 毎年11月の初め、やきもの屋さんたちの懐かしい顔がそろう。 今年は遠くからの出展が目立つようだ。宮崎や山口といったプレートがある。 その山口の彼とは、4月、阿蘇高森で一緒だった。 「おれには師匠はいない」と豪語していた。東…

竹トンボ

日曜日の夕方になると遊びにくる近所の子どもたちに、 「おじちゃん、なんか作ろう」と誘われていた。 「なんかってなんだろうねぇ」ととぼけていたら、子どもたちは工具箱から釘とハンマーを持ち出して、作業台にしている丸太の切り株に釘を打ち込む。 「こ…

月例朗読会『高瀬舟』(森鴎外)

今回の朗読は、森鴎外の『高瀬舟』でした。 「大人たち」が中心の朗読ライブになりました。 さて、これまで気楽に朗読をやらせてもらっていた『ばってん』が、来月にも引っ越します。 引っ越し先は200メートルと離れてはいないのですが、天草で唯一残った…

ある人生

流木を探しに海水浴場に行った。 遠くに小さなプラスチックのバケツを持った人がいる。おもちゃのような赤いバケツだ。ときどきしゃがんではなにかを拾っている。釣り餌にするために、ヤドカリでも拾っているのか。 お互いの距離が詰まった。 「こんにちは」…

哲ちゃんのキュウリ

哲ちゃんは、ビニールハウスでキュウリをつくっている。 一年に一度、屋根のビニールの張り替えをする。二、三人でできる仕事ではない。そこで加勢人をたのむ。作業の肝心なところは、哲ちゃんと同じくビニールハウスで農業をする人たちが受け持つ。われわれ…

トントン・パテルのお話し(全)

(1) ある日のことです。 トントン・パテルの住む村に大きな地震が起こりました。 パテルは、父さんと母さん、妹と一緒に、ちょうどお昼のご飯を食べていました。最初、お膳の上の茶碗がカタカタと音をたてました。パテルがおやおやと思っていると、ドンと…

一部修正して、まとめてみました。 これまで読みにくいものを読んでくださって、ありがとうございます。 避難と希望の話です。