あやしいおじさん

あやしいおじさんが徘徊していると、近所の噂になっている。
頭には変な帽子をかぶり、上半身裸で、半ズボンをはいている。話しかけても、言っていることがさっぱり分からない。追いかけると、路地に入ったところで、消える。
宇宙人ではないか、という人もいる。人間なら12月のこの寒い時期に上半身裸で半ズボンというわけにはいくまい。


今朝、ごみ出しに行ったときに、そのあやしいおじさんと会った。へらへらと笑っているように見える。
「おはようございます」と言った。
「ほにょら、ほにょら」と返ってきた。
「あの、ほにょら語はわからんのですが」というと、
「ほにょら、ほにょ、ほにょ」ときた。
さっぱりわからない。やっぱり、宇宙人なのか。
おれはごみ袋を置いて、家へと歩き出した。振り返るとあやしいおじさんが付いてくるではないか。とうとう家の前まで来た。
「なんか、用事ですか」
「ほーにょ、ほにょ、ほにょ」
ウグイスと話しているようだ。
「どこから来たのですか」
あやしいおじさんは空を指さした。やっぱり。
「お茶でもどうですか」
「ほにょ、はにょ」
こちらの言うことは分かっているようだ。
玄関を開けた。おれが先に入った。続いてあやしいおじさんが入るものと思っていた。待っても入ってこない。表を見た。表にはだれもいない。帰ったのかと思って、ドアを閉めて中に入った。いた。テーブルに座ってへらへらしている。
「お茶はなにがいいですか。コーヒー、紅茶、それとも焙じ茶
最後の焙じ茶のところで「ふにゃ」と聞こえた。そうか、焙じ茶がいいんだな。
おれは焙じ茶を入れた。
あやしいおじさんは一気に飲んだ。ネコ舌のおれはちびちび飲んでいるのに。
電話が鳴った。キョンキョンからだ。
「宿題の感想文を忘れてしまって」
「わかった。届ける」
すると、あやしいおじさんが、
「ふにゃら、ほにゃら」と自分の胸を指している。
どうも、自分が届けると言っているようだ。
じゃ、頼もうじゃないか。


帰ってきたキョンキョンが言った。
「びっくりした。じいちゃんに電話して教室に帰ったら、おれの机の上に感想文があるじゃないか」