圭太の島 1

 圭太は跳ぶ。
 圭太は跳ぶことが好きだ。歩くときでさえ、圭太は跳びあがるように歩く。
 圭太が跳ぶ感覚を全身で味わうのは、山の頂上まで耕された段々畑の、上から下までを一気に跳んでおりるときだ。
 海をのぞむ段々畑の、いちばん高いところから海にむかって跳ぶ。大きく息を吸い込んで思いきり高く跳びあがると、透明な空気のなか、海はすぐちかくに感じられる。その感じがよくて、また跳ぶ。よく耕された畑の土は、圭太の着地をやわらかく受け止めてくれる。


 雲が、まぶしく輝くような白さになり、夏がきた。
 教室には涼しい風が吹きぬけているが、窓から見える花壇のひまわりは、これからはじまる暑い夏に、はやくもげんなりしているようだ。
「すぐ、夏休みだ」
 そう考えると、わくわくとたのしい気分になった。ひまわりにも元気を出してもらわなくては。なにしろ、夏休みにはすることがたくさんあるのだから。
 まず、探検すること。つぎに水晶山に行くこと。それから、なによりも橋の工事の進み具合を見なければいけない。工事は始まったばかりだったが、橋桁の基礎のための「水中発破」があった。
「水柱が三十メートルは上がったなあ」
その時のようすを政司の父親は、はるかかなたの雲を見上げるようにしていった。
「こら、圭太!」
突然の岡野先生の声で、三十メートルの水柱はかき消されてしまった。