武闘派

じいちゃんとばぁちゃんは、週に一回温泉に行く。
キョンキョン、たまにはお前も行くか」と誘われた。
「今日はお前のとうさんとかあさんの帰りは遅いし、たまにはつるんとしたゆで卵みたいな顔になるのもいいんじゃないか」とじいちゃんが言った。
「帰りにラーメンでも食おうか」
これが決定打だった。おれは、つい、うなずいてしまった。
「帰りにラーメンでも食おうか」
おれの人生を暗示するような言葉じゃないか。
一杯のラーメンの魅力に負けてしまうおれがいる。いいや、将来、ラーメンが焼酎やタバコに変わるかもしれない。それらはいつか、料亭の懐石料理に変わり、懐石料理は、やがて、お金に変わるのかもしれない。
そこには、いつも誘惑に負けてしまうおれがいる。
負けないのが、ばぁちゃんだ。
ばぁちゃんは強い。「なでしこジャパン」も真っ青の強さだ。
もっとも、じいちゃんに言わせると「なでしこジャパン」は、「きれいな爆弾」や「正義の核兵器」と同レベルの言葉操作だということになる。
でも、ばぁちゃんはちがう。薙刀を持って真っ先に戦場に駆けつけるタイプだ。要するに、武闘派だ。
おれはいつも生傷が絶えない。顔の正面にゲンコツがくる。よけると、ばぁちゃんはくるりと振り向いてヒジテツだ。おなかを引いてそれもよけると、回し蹴りが飛んでくる。
「どうだ、少しは強くなったか」
じいちゃんは、へらへらと笑っているのだ。
二人はおれを武闘派に育てるつもりらしい。