2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

遊びを覚えたチビスケ

籐製の長椅子がある。 ずっとぼくが使っている。 この前にチビスケがやってくる。 チビスケは少し目を細めるようにして、ぼくを見る。 遊ぼうといっている。 右手を置く。チビスケが飛びかかる。 ぼくは手を引いて、チビスケにタッチ。 チビスケは部屋をぐる…

キョンキョンの釣り

「キョンキョン、たまには釣りに行こうか」 じいちゃんに誘われた。11月の、小春日和の、穏やかな一日だ。 「なにが釣れるの?」 「なにがじゃなくて、なにを釣るかだ」 ふうん、そんなものかね。 「キョンキョンは初心者だから、基本のガラカブを釣るか」…

豊作の柿

国道を走る。郊外のスーパーを過ぎると、田園風景が広がる。 どの家にもどの家にも大きな柿の木があって、どの家の柿の木にも朱色の柿が枝も折れるほどに実をつけている。 「どうしてだれもとらないのかなぁ」 キョンキョンが聞いた。 「とりたくてもとれな…

台風の朝 3

理科室の窓からは、校庭が見える。校庭の左側は、小高い山になっていて、町並みは、右手の方に広がる。家々が立ち並ぶ上空に黒っぽい点々が見える。こんな暴風雨の中、カラスが飛んでいるとは思えない。 トリサキ先生がおれのとなりに立った。 「カワラだ。…

台風の朝2

先に帰ってきたのは、タナカ先生だった。 「街はひどいことになってるよ」 折れた街路樹が道路に散乱していて、それが風にあおられて道路をすべっていく。 「やっぱり」とイクオがすぐに反応した。「気圧がぐんぐん下がっています。970まで下がりました」 お…

台風の朝 1

台風が近づいている朝。雨こそ降っていないが、雲は南から北へ猛烈な速さで飛んでいる。 中学の校門で、理科の教師が、もう、うれしくてしようがないといった満面の笑みでニコニコしている。 「おい、おまえら」と彼は生徒の一団にいった。 「なんとなくウキ…

科学的という迷信

キョンキョンの話 今日、学校で原発についての先生の話があった。 「原子力は、将来のエネルギーです」と、先生は話し始めた。 「地球は今、温暖化という問題に直面しています。なんとかしなくてはいけない。世界中のたくさんの科学者が、温暖化について警告…

予言

枯れた土地を やせた子どもが歩くだろう レンガ色の太陽が 壊れた家々を染めるだろう 乾いた風が 怒りにまかせて吹き荒れるだろう それから さらに 多くの人が 白い風となるだろう 哀しみとともに 怒りとともに 足下で たくさんの屍の砕ける音 暗闇で 静かな…

塩屋20周年記念「塩祭り」

ぼくらも天草に来て20年になる。 「プーリー」というインドカレーの店があった。彼とは、そこで初めて会った。 絵を描いてくれませんか、といわれた。天草での塩づくりの場所が決まったので、地域の人に説明をする。それには絵があった方がイメージしやすい…

タコのコラコラ煮

「キョンキョン、冷凍庫からタコを出しといてくれ」 おれが朝飯を食い終わって、茶碗と皿を台所の流しに持っていったときだ。じいちゃんがおれの背中に声をかけた。朝の7時半だ。おれはこれから学校へ行く。 「今夜は、タコのコラコラ煮にしよう」 コラコラ…

線を引く

思い通りの線を引くのは難しい。 きのう、写生大会があった。海岸に行って、防波堤と海と、その向うの島と島の上の雲を描いた。描いたそばから消しゴムで消したくなる。実際、消した。写生大会が終わるころには画用紙は、すすけたふすまのようになった。 で…

ダルメウナギ

じいちゃんのカレンダーに赤い印が付いている。今日の日付だ。 夕方にじいちゃんは出刃包丁を研ぎ出した。それも二本だ。 「キョンキョン、今夜は2時に起きな」 おれは宿題をして、作文を書いて、やることがいっぱいあるのに。 「懐中電気を二つ用意しなくち…