髪を切る

おれの髪は、じいちゃんが切る。
新聞紙を3枚広げる。その真ん中に上半身裸になったおれが座る。
じいちゃんが電気バリカンで髪を刈っていく。新聞紙の上におれの髪の毛が落ちる。黒い、と思って見ていると、金色の髪が一本ある。おれはそいつをつまんだ。
「金髪があった」
「15代前のDNAが出てきたんだろ」と、じいちゃん。
「なに?15代前ってなんなの?」
「人が生まれて成長し、次の子どもをつくるまで、およそ30年だ。これを1代と考える。それじゃ、15代は?」
うーん、15×30の問題だ。とりあえず、0をとって、15×3で考えよう。
「わかった。450」
「450年前、天草に南蛮人がきた。天草の女と南蛮人が恋に落ちたとしても不思議ではない。こうして、アマクサナンバン1号が誕生する」
「じゃ、じゃ、おれはアマクサナンバン15号ってこと?」
「そういうことだ」
裸の背中が寒くなってきた。


じいちゃんがバリカンのスイッチを切った。
「たまにはモヒカンでいくか。いいかどうか、鏡を見てきな」
なんだ、こりゃ。頭の中心部分が残ったままだ。こんなんじゃ恥ずかしくて学校に行けないじゃんか。
「ハ、ハ、冗談だ」
じいちゃんはバリカンのスイッチを入れた。
おれが終わった。
「じゃ、次はじいちゃんの番だな」
じいちゃんはハサミを持つと、バチバチ切りはじめた。少しのためらいもなく切っていく。
8割方白髪の髪が、新聞紙の上に落ちていく。
じいちゃんは、19歳の時に行った床屋を最後に40年間、床屋に行っていない。自分で言っているが、多分、本当のことだろう。じいちゃんの、いい加減で、適当で、ワイルドな性格を見ていると、よくわかる。