語り

お子さまランチ

「桜が満開でございます。地獄のふたも満開でございます」 「おい」 「なんや」 「昨日、食堂に入った」 「それでどないしたん?」 「それが、みょうちきりんな食堂でな。なんかおかしいのだ」 「なんかって、なんや?」 「そこがうまく説明できない。経験あ…

  色即是空

倉地さんという発明家のおじいさんがいる。彼から「波動」の話を聞いたことがあった。 話の始めに彼は言った。 「わしがなぜ、波動の研究を始めたかというと、年間30兆円といわれる医療費のうちの1兆円くらいを減らしたいというのが一つ。もう一つは、格…

 エレベーターガール

隆盛を誇ったデパートにも陰りが見え始めた。 この「しあわせデパート」も例外ではない。 「みなさま、本日は当「しあわせデパート」にお越しくださいましてありがとうございます。わたくしは本日のご案内をさせていただきます植木かおりと申します。どうぞ…

ほめごろしのよっちゃん5

〜段ボールシェルター ほめ殺しのよっちゃんは、段ボールでシェルターをつくっていた。縁側で作業していると、向かいのおじさんが声をかけてきた。 「なにをつくっているんだい」 「シェルターですよ」 「シェルターって、いったい何から避難するのさ。放射…

今日から明日へ

〜家のネコども家ではおれが一番早く起きる。 起きてまず、ストーブに火をつける。ストーブがあったまるころにネコどもが起きてくる 「やっぱり、ストーブはあったかいな」 「布団の中とはまたちがいますね」 「さあ、一日の始まりだよ」 「きのうの続きの一…

HEART OF THE SEA

〜海のこころ タコの兄ちゃんは、名前をロクといいます。 ロクは、のんびりやです。あるとき、みんなで海の中の大きな岩の上で昼寝していましたが、ロクが目を覚ますとだれもいません。それに、体中がひりひりと痛いのです。よく見ると、海水につかっていた…

クモの子ジップ

〜たくさんのわたし ジップはクモの子です。ジップのきょうだいは三百五十クモいますが、名前はみんなジップです。おんなじ日に、おんなじ一つの大きな卵から生まれました。 ほんとは、卵は一つではなくて、いくつかにわかれていたのですが、母さんが糸をだ…

 ネルのはなし

「嫌いだ、嫌いだと思っていればさ、すぐに嫌いなものはやってくるんだ」 木の上で、もしゃもしゃ髪のフランが言いました。 「好きだ、好きだ、いつまでもこのままでいたいと思っていると、あっという間にいなくなってしまうのさ」 ネルは寒い冬がいやでした…

トントン・パテルのお話し(全)

(1) ある日のことです。 トントン・パテルの住む村に大きな地震が起こりました。 パテルは、父さんと母さん、妹と一緒に、ちょうどお昼のご飯を食べていました。最初、お膳の上の茶碗がカタカタと音をたてました。パテルがおやおやと思っていると、ドンと…

      トントン・パテルのお話し

(6) 「この水は、チチハリヤマの雪が溶けて湧き出たものだよ」 タットばあさんは言いました。 「その証拠に、見てごらん。常に湧きだしているだろう」 レミィは自分のコップを出すと、さっとすくって飲んでしまいました。 「じゃ、わたしも」 母さんのメ…

    トントン・パテルのお話し

(5) タラチネヤマを下りるのに丸一日かかりました。 不思議なことに、村を出てからこれまでに生き物の気配を感じたことは一度もありません。鳥の鳴き声さえ、聞かなかったのです。それが、タラチネヤマを下りる途中、空の高いところを白いネコカラスが飛…

トントン・パテルのお話し

(4)「おう、これはひどいね」 タットばあさんは、ブドンの足を見て言いました。そして、乾燥したヨモギの葉を出して、少しの水で湿らせてからブドンの足に当て、包帯で巻きました。 「まて、まて。これじゃ、靴がはけん」 タットばあさんは、ブドンの靴を…

トントン・パテルのお話し

(1) ある日のことです。 トントン・パテルの住む村に大きな地震が起こりました。 パテルは、父さんと母さん、妹と一緒に、ちょうどお昼のご飯を食べていました。最初、お膳の上の茶碗がカタカタと音をたてました。パテルがおやおやと思っていると、ドンと…

じゃんけん市長

「じゃんけんって、やったことあるだろう。 いつの間にか、「最初はグー、じゃんけんぽん」が普通になった。 しかし、もともとはちがった。 「ぱっと開いて、じゃんけんぽい」。 これが正統。 しかし、これにもそれ以前があった。 「ハサミではさんで、じゃ…

漫才『ナンバ式』

同級生の二人は、高校卒業後、関西と関東にわかれました。そして、月日は流れて、めでたく定年退職。退職後に故郷で再び出会います。漫才コンビ『オジサンコミック』の誕生です。 「ロンドンオリンピックが終わりました。選手・役員のみなさん、お疲れさまで…

未新子(ミジンコ)

未新子=ミジンコは、今年一年生になったばかりの、おれ、キョンキョンの妹の名前だ。名前をつけたのはもちろん、じいちゃんだ。生まれた時、ひときわ小さかったらしい。それで、未新子。相当飛躍していると思うけど。 おれとおなじで、だれも未新子(ミジン…

就活の夢

《現実》 面接で一兵卒になれるかと問われる 「あなたの代わりはいくらでもいます」 「うちに入るなら夢は捨てなさい」 「夢は過去の遺物です。平凡に生きることです。結婚して、子どもが生まれ、家を建て、あなたは課長になり、やがて、退職する。あなたは…

夏の鍋

ジメッとして暑いですね。こんな日は、どうです、思い切って鍋にしませんか。 暑い日の鍋ですか。汗が出ますよ。 だから、いいんです。おもいきり汗をかいて、体中のモヤモヤを出してしまうんです。 出ますか、汗といっしょに。 経験からいって、出ます。 そ…

草刈りの熊五郎

熊五郎は、草刈りが専門だ。村の年寄りたちは、自分で手入れできなくなった畑や山の草刈りを熊五郎に頼む。すると熊五郎は、背中に大きなノコギリを背負い、薙刀のような鎌をかついでやってくる。まったく熊五郎とはよくいったもので、顔中がもじゃもじゃの…

ワンナイト ツウナイト スリーナイトストーリー

ワンナイト(「台風の朝」その後)・・・『結婚式』 トリサキ先生がタナカ先生と結婚することになった。三月、春休みに結婚式だって。 おれとイクオとモモコに結婚式の招待状がきた。「来てくれるだけでうれしい」と書き添えてあった。三人で相談した。 「普…

カフェ・オ・ラ・オ・リ

昔むかし、フランス語の先生が語ってくれたことがあった。 「フランス人は、朝、ベッドでコーヒーを飲むのだ。朝起きたらまず、台所に立つ。寝巻のままだ。そこでコーヒーを沸かす。片方で牛乳を沸かす。沸いたら、こう目の高さに両方を持つ。右手にコーヒー…

キョンキョンの釣り2

じいちゃんが物置をかき回している音がする。 まったく、整理整頓というのができないのかね。 「あった、あった」 じいちゃんが出てきた。釣竿を2本持っている。 「今日は、クロを釣ろう」 なに?クロってなに? 「東国では、グレとかメジナと呼ばれている…

じいちゃんが風呂嫌いなわけ

じいちゃんは風呂が嫌いだ。 今は一週間に一回、ばぁちゃんと温泉に行っているけど、一ヶ月入らなくても平気だと言っている。 じいちゃんはこう言う。 「いいか、キョンキョン。風呂に入るにはまず、服を脱がなくてはいけない」 そりゃそうだろ。 「若い頃、…

あやしいおじさん

あやしいおじさんが徘徊していると、近所の噂になっている。 頭には変な帽子をかぶり、上半身裸で、半ズボンをはいている。話しかけても、言っていることがさっぱり分からない。追いかけると、路地に入ったところで、消える。 宇宙人ではないか、という人も…

キョンキョンの潮干狩り

「キョンキョン」 じいちゃんが呼んだ。おれは寝転がって本を読んでいた。明日までにこの本を読んで読書感想文を書かなくてはいけない。 「マテ貝をとりに行こうか」 じいちゃんの声は間のびしている。 「な、なに、マテ貝ってなに」 「長い貝だ」 「長いっ…

じいちゃんの小説

朝早く目が覚めた。外はまだ暗い。時計を見た。4時だ。 じいちゃんの部屋からカタカタと音がする。じいちゃんがパソコンを打っている。 おれは、そっと起き上った。じいちゃんの部屋をのぞく。カタカタの音が止まった。グビリと音がする。焼酎を飲んだな。 …

髪を切る

おれの髪は、じいちゃんが切る。 新聞紙を3枚広げる。その真ん中に上半身裸になったおれが座る。 じいちゃんが電気バリカンで髪を刈っていく。新聞紙の上におれの髪の毛が落ちる。黒い、と思って見ていると、金色の髪が一本ある。おれはそいつをつまんだ。 …

キョンキョンの釣り

「キョンキョン、たまには釣りに行こうか」 じいちゃんに誘われた。11月の、小春日和の、穏やかな一日だ。 「なにが釣れるの?」 「なにがじゃなくて、なにを釣るかだ」 ふうん、そんなものかね。 「キョンキョンは初心者だから、基本のガラカブを釣るか」…

豊作の柿

国道を走る。郊外のスーパーを過ぎると、田園風景が広がる。 どの家にもどの家にも大きな柿の木があって、どの家の柿の木にも朱色の柿が枝も折れるほどに実をつけている。 「どうしてだれもとらないのかなぁ」 キョンキョンが聞いた。 「とりたくてもとれな…

台風の朝 3

理科室の窓からは、校庭が見える。校庭の左側は、小高い山になっていて、町並みは、右手の方に広がる。家々が立ち並ぶ上空に黒っぽい点々が見える。こんな暴風雨の中、カラスが飛んでいるとは思えない。 トリサキ先生がおれのとなりに立った。 「カワラだ。…