ネルのはなし


「嫌いだ、嫌いだと思っていればさ、すぐに嫌いなものはやってくるんだ」
木の上で、もしゃもしゃ髪のフランが言いました。
「好きだ、好きだ、いつまでもこのままでいたいと思っていると、あっという間にいなくなってしまうのさ」
ネルは寒い冬がいやでした。
昨日は冷たい風が吹き抜け、ネルの小さなあたたかい心臓の音も耳を澄まさなければ聞こえないようでした。
今日は風といっしょに雪が舞っています。ネルの小さな目の前を白い雪は次々通り過ぎて、まるで白いカーテンのようです。
もしゃもしゃ髪のフランの、歌うような声が聞こえます。
「春はきらいといってみな。
お花はきらいといってみな。
お日さまきらいといってみな。
きらいなものはすぐにくる」
ネルは小さな声でいってみました。
「春はきらい。お花はきらい。お日さまもきらい」
「それじゃ、聞こえないよ」
もしゃもしゃ髪のフランはいいます。「それじゃ、野原にだって届かない。お日さまなんか、ずっと遠くにいるんだから」
ネルは、大きな声ではっきりといいました。
「春はきらい。
お花はきらい。
お日さまなんて大っきらい」
するとどうでしょう。なんだか少しあたたかくなった気持ちです。
風の音が静かになり、雪がやみました。
「ほらね」
もしゃもしゃ髪のフランが木からおりてきました。「願いごとはさ、反対のことを願うのさ。なぜって、鏡になってるからね」

母さんと父さんのいない二度目の冬がやってきました。
ネルは、ずっと迷っています。
ネルは母さんと父さんが大好きでした。それで、どうしても母さんと父さんがきらいといえないのです。母さんと父さんに会いたくないといえません。
山の上では半分の月が輝きはじめました。