今日から明日へ

〜家のネコども

家ではおれが一番早く起きる。
起きてまず、ストーブに火をつける。ストーブがあったまるころにネコどもが起きてくる
「やっぱり、ストーブはあったかいな」
「布団の中とはまたちがいますね」
「さあ、一日の始まりだよ」
「きのうの続きの一日かな」
「続きもあるけど、新しく始まるものもあるさ」
「そんなものですかね」
「そうやって古いものの上に新しいものを重ねていくのさ」
「すると、だんだんと重たくなるでしょ」
「五を引いて五を足す、総量は同じさ」
「それじゃ、ゼロじゃないですか。マイナス五、プラス五は、ゼロ」
「点で考えるとそうだな。でも、線で考えたらどうだい」
「線は長い・・・」
「長さは時間だよ。たとえば、フェードアウトとフェードインというのがある」
「あの、少しずつ消えていくやつですか」
「マイナス五だっていっぺんにマイナス五になるわけじゃない」
「どれくらいかかるのかなあ」
「一晩だな」
「じゃ、プラス五は、一日かけてプラス五になるの」
「そのとおり。目が覚めてきたな」

「ところで、ちょっと熱すぎやしませんかね」
「たしかに。ちと、熱いな」
「ストーブから離れたらいいんですよ。ほらね」
「かしこいな」
「いや。面と向かってそういわれると恥ずかしいな」
「恥ずかしがることはないさ。おれはかしこい、そう思っていればいいんだ」
「そんなもんですか」
「ああ、そんなもんだよ」

「アー、おれ、また、眠くなってきたな」
「おまえさん、その大口はあんまりだろう。顔の半分は口じゃないか」
「悪いですか」
「大事なことを話そうと思ったんだが、忘れちまったじゃないか」
「大事なことを忘れたら困ります。もっとも、本当に大事なことだったら忘れないでしょうがね」
「生意気な口のきき方だが、真理だ」
「ホッホ」
「なんだ、ホッホって」
「かしこいネコの自家撞着です」
「わけが分からん。あ、思い出した。マイナス五、プラス五の話だけどな、確かに総量はゼロになる。だけど、もともと持っているものがある。その持っているものは変わらないということなんだが」
「なんか難しそうですね」
「なに。簡単な話さ。おれもおまえも「オニャー」と生まれた。この瞬間におれもおまえも十のものを持つのさ。その持っている十の中身を変えていく、これが、きのうから今日へと変わっていく本当の意味なんだが」
「わるいけど、おいら、点でいきますわ。姉さんの話にのっていたら、次には線から面の話になって、三次元の話にまで飛ぶのは分かってますから。江戸っ子は、宵越しの銭は持たねえ。おいら、それでいきます」