ワンナイト ツウナイト スリーナイトストーリー

ワンナイト(「台風の朝」その後)・・・『結婚式』


 トリサキ先生がタナカ先生と結婚することになった。三月、春休みに結婚式だって。
 おれとイクオとモモコに結婚式の招待状がきた。「来てくれるだけでうれしい」と書き添えてあった。三人で相談した。
「普通は、結婚式といったら二万や三万つつむもんだよ」とイクオがいった。
「一人でか」とおれ。
「二千円くらいならなんとかなるかも」とモモコ。
「うーん」
イクオが頭をかしげた。イクオが考えるときの癖だ。
「お祝いのプレゼントを贈るというのはどうだろう」
おれは言ってみた。
「わたしたちがお金を出し合って、これってものを選ぶのよね」
「これって何さ」
イクオは首をかしげたままだ。
「コーヒーカップなんてどうかな?朝起きたらトリサキ先生だったらきっとお茶じゃなくてコーヒーを飲むと思うな。タナカ先生も、髪の毛をかきむしりながら向かい合ってテーブルに座る。テーブルの上には、おいしそうに焼けたパンとサラダ。もちろん準備したのはトリサキ先生。で、コーヒーはだれがいれるかというと、やっぱりトリサキ先生よ」
イクオが首をしゃんと伸ばした。
「モモコ、おまえ、恐ろしい女だな。そんな光景が見える気がする」
おれは、モモコの顔を見たよ、まじまじと。
「でもさ、私たち中学生よね。自分でお金稼いでない。この際、来てくれるだけでうれしい、と書いたトリサキ先生を信じてもいいんじゃない」
「先生を信じる。なんか、変な感じだな」とおれ。
「信じるのは自分だと思うよ」とイクオが言った。
「そうか、分かった。ぱっと分かっちゃった。先生も信じ、自分も信じる。信頼というのはそういうことじゃない?」
「やっぱりモモコは恐ろしい」
今度はイクオがまじまじとモモコを見た。