クモの子ジップ
ジップはクモの子です。ジップのきょうだいは三百五十クモいますが、名前はみんなジップです。おんなじ日に、おんなじ一つの大きな卵から生まれました。
ほんとは、卵は一つではなくて、いくつかにわかれていたのですが、母さんが糸をだしてグルグルまきにして、まるで一つの卵のようにまとめてしまったのです。
母さんグモのマーシーが、
「ジップや」と呼びますと、たくさんのジップがいっせいに「ハーイ」とこたえます。
ジップたちはいつもいっしょに遊びました。
あるとき、いつものようにやわらかな草のうえで遊んでいますと、ザッ、ザッという音が聞こえてきました。
「にんげんだよ」
マーシーはいいました。
ジップたちは、わらわらといろんな方向に逃げました。みんながおなじ方へ逃げたらみんな踏みつぶされてしまうかもしれません。マーシーからいつもいわれていました。
それでもこのとき、十二クモのジップがつぶされてしまいました。
しばらくすると、ジップたちは自分で糸をだせるようになりました。自分の糸を木の枝にくっつけて、ぶら下がったりして遊んでいました。とつぜん、木の上がさわがしくなりました。
「メジロだよ」
マーシーがさけびました。
ジップたちは急いで木の枝にかえりましたが、六十六クモのジップがメジロに食べられてしまいました。
よく晴れた日のことです。マーシーはみんなを集めていいました。
「ジップや。いよいよ、出発のときがきたよ。木の上から風にのるんだよ。たかく、たかく、とおく、とおく飛ぶんだよ、いいかい」
「ハーイ」
ジップたちは声をそろえてこたえました。
「それから、あたらしい場所について、はじめてのクモにあったら、わたしはマーシーの子どもで、ジップといいます、っていうんだよ」
ジップはだまってうなずきました。もう、ジップの頭のなかは空を飛んでいる自分のすがたでいっぱいです。
風は、海の方から山へと吹いています。ヒュウーと木の枝をゆらし、それからいちだんと強くゴウと吹いています。
「さあ、いまだよ」
マーシーがいいました。
ジップはつかんでいた葉っぱをはなしました。