語り

台風の朝2

先に帰ってきたのは、タナカ先生だった。 「街はひどいことになってるよ」 折れた街路樹が道路に散乱していて、それが風にあおられて道路をすべっていく。 「やっぱり」とイクオがすぐに反応した。「気圧がぐんぐん下がっています。970まで下がりました」 お…

台風の朝 1

台風が近づいている朝。雨こそ降っていないが、雲は南から北へ猛烈な速さで飛んでいる。 中学の校門で、理科の教師が、もう、うれしくてしようがないといった満面の笑みでニコニコしている。 「おい、おまえら」と彼は生徒の一団にいった。 「なんとなくウキ…

科学的という迷信

キョンキョンの話 今日、学校で原発についての先生の話があった。 「原子力は、将来のエネルギーです」と、先生は話し始めた。 「地球は今、温暖化という問題に直面しています。なんとかしなくてはいけない。世界中のたくさんの科学者が、温暖化について警告…

コスモスとかまきり

雨が降りそうだな、とかまきりがいいました。あら、そうかしら、とコスモスがいいます。だってさ、空は曇ってきたし、おいらの羽をなでていく風も湿っとしていてさ、今にもポツンと落ちてきそうじゃないか。でも、かまきりさん。風が吹いてくる方向を見てご…

ナシトゲ神社

こう暑い日が続いちゃかなわん。 子どもたち、こっちへ寄れ。この銀杏の木の下だ。 どうだ、日蔭は涼しいだろう。 夏休みの宿題は終わったか。ナシトゲ神社の梨は食ったか。 そうか、そうか。 それじゃ、今日は、そのナシトゲ神社の話をしよう。 むかし、む…

龍が空をとぶわけ

龍が空を飛ぶわけ 浜辺に座って、爺さんが焼酎を飲んでいる。目は濁ってとろんとしていて、顔は酒焼けでてらてらと光っている。その爺さんが、龍が飛ぶことについて話をした。 梅雨の晴れ間の夕方で、空には不安定な夏の雲がひしめいている。 若いの、まあ、…