ほめごろしのよっちゃん5

  〜段ボールシェルター


ほめ殺しのよっちゃんは、段ボールでシェルターをつくっていた。縁側で作業していると、向かいのおじさんが声をかけてきた。
「なにをつくっているんだい」
「シェルターですよ」
「シェルターって、いったい何から避難するのさ。放射能じゃないだろうね」
「そんな。寒さ、からですよ」
よっちゃんは、向かいのおじさんに答える。
「だって、それ、ただの段ボールだろ」
「そうですけど」
「そんなんで寒さから避難できれば、ノーベル賞ものじゃないか」
「みんな、だまされているんですよ」
「だまされているってことは、おれもだまされているうちか」
「そうですよ」
「いったい、どうだまされているというんだい」
「石油屋さんと電気屋さんにだまされて、石油ストーブだの電気コタツなど使っているんですよ。ほんとはそんなもんなくったって冬は過ごせるのに」
「そうかい。おれはやっぱりコタツでテレビを見たいがな」
「最悪のパターンですね。おじさん、いつからコタツがありました?いつからテレビがありました?」
「そりゃ、おれの子どもの頃よ」
「その頃、おじさんは幸せだった?そうでしょ。お父さんがいてお母さんがいて、みんなでコタツに入ってテレビを見てた?そうでしょ」
「そりゃ、そう、だったかもな。なんせ、小学生のガキだったから、暗くなるまで外で遊んで、あとはコタツで飯食って寝るだけよ」
「典型的な三丁目の夕日効果ですね」
「な、なんだ。三丁目のなんとかって」
「映画、見てない?見たらおじさんなんかいっぺんにヨレヨレになっちゃいますよ」
「おれがヨレヨレになっちまう映画か。見てみたいもんだな。で、そいつはどんな映画だい」
「昭和三十年代の東京のはなしです。東京オリンピックの前後かな。下町のくるま屋さんとその向かいの雑貨屋さんを中心にしたもので、くるま屋さんには東北から働きに来ているお姉さんがいて、雑貨屋さんにはどういうわけか売れない小説家がいて、そこにはまたどういうわけか、中学生くらいの子どもがいて、・・・」
「ややこしい。映画見た方が早い。今度ツタヤに行ったら借りてきてくれ」
「そうします」
「ところで、その寒さしのぎのシェルターだけど、いつできるのかな」
「今日の夕方にはできますよ」
「本当にあったかいんだろうな」
「たぶん。相当にあったかいはずですよ」
「そのてっぺんの穴はなんだ」
「あったまった空気が抜けるように開けときました」
「冷たい空気が入ってくるんじゃないか」
「最初のうちは、ですね。でも、五分もしないであったまります。計算上は」
「計算上、って。どんな計算したんだ」
「ご覧のとおり、段ボールシェルターは四角垂です。四角垂の体積は、底面積×高さ×三分の一です。で、これは、一片が一メートルで、高さが一,五メートルでつくりました。したがって体積は、一×一×一,五×三分の一です」
「えーと、〇,五だ」
「つまり、〇,五㎥ですよね。それで、ぼくの体積をはかりました」
「どうやって?」
「お風呂のお湯を満杯にします。そこへ右足を入れる。右足の分だけお湯がこぼれます。こぼれたお湯の量をはかります。次に左足。それから頭の先まですっぽりお湯にしずめて、あふれたお湯の量をはかります」
「ほう、ずいぶんかしこいことをやるじゃないか。それで、おまえさんの体積はいくらだった?」
「〇,二五㎥です」
「そんなもんか」
「ええ、そんなもんです」
「まてよ、すると段ボールの体積のちょうど半分だな」
「そうなります」
「そいつがなんで五分であったまる?」
「いいですか。人間も含めて、動物はそれ自体が発熱体なんですよ。つまり、自分で熱をつくりだしているわけです」
「だから?」
「熱が逃げないように囲ってやればいい。こう、なります」
「・・・だまされたつもりでやってみるか」
「今までだまされてきたんですから、ね」