やさしさの王国

空には雲が浮かび
風が吹き
木の葉が舞い
一匹のアリの上に落ちる


きみは一部始終を見た
とうの昔にこの世界を離れた雲と
気まぐれな風と
春の芽吹きのために葉を落とす木と
突然の暗黒に戸惑うアリと


きみは立ち止り
そっとつまんで 木の葉を持ち上げる
アリはきみを見
きみはアリを見る
「ようこそ やさしさの王国へ」
アリはうやうやしく頭を下げる


「あなたのお席はこちらです」
アリは白い羽毛の椅子に導く
「椅子に座ったら目を閉じてください」


目を閉じると浮かび上がる光景
小川のせせらぎ
渚にうちよせる波
海の向こうの山々にあふれる光
風はきみの頬をかすめる


静かで豊かな時間が過ぎる
きみは
目に涙があふれるのを感じる


「いかがでしたか」
アリがささやく
きみは 涙のままうなずく
「また お会いしましょう。
こんどわたしは コオロギかもしれません。
風に舞う 木の葉かもしれません」