哲ちゃんのキュウリ

哲ちゃんは、ビニールハウスでキュウリをつくっている。
一年に一度、屋根のビニールの張り替えをする。二、三人でできる仕事ではない。そこで加勢人をたのむ。作業の肝心なところは、哲ちゃんと同じくビニールハウスで農業をする人たちが受け持つ。われわれ素人はその手伝い。ネコの手くらいか。男女とり混ぜて、総勢20人ほどがビニールハウスにとりつく。
哲ちゃんから今年も頼まれた。昼と夜の弁当付き。手間代はキュウリの現物支給。
ビニールハウスは、長さが70メートルある。それが三棟。

まず、一年間使った古いビニールをはがす。これで午前中がつぶれる。午後からは、新しいビニールを張る作業にかかる。
「風速8メートルだってよ」
苓北の午後は、たいてい風が吹くのだ。70メートルのビニールは、風を孕んで巨大な生き物のように暴れる。細い鉄筋の上に不安定に立ちながらビニールを押さえる。
この時季になると昼間の時間が短い。三棟目を張るころには、太陽は大きく西に傾いて、風が冷たくなる。
「何とか終わったばい。あ、弁当、持って帰ってくれ」
「明日はおれんとこだからたのんます。朝、7時からやりますんで」
この弁当、飯の量といい、おかずの多さといい、ゆうに二人分はあった。