笑う女。


いつもの海に見かけない女性が座って釣りをしていました。
「アハ、アハハハ。ウキが沈んだ」
大柄だけど、動作はスムーズです。
「引いてる、引いてる。アハハハ」
座ったまま、フンとばかりに魚を抜きあげます。まさに、ごぼう抜き。
「アハ、ボラだ。猫じゃなくてよかった。ハハハハ」

彼女を見ていると、男は狩に行って獲物をとってくる。女は、火を焚き、水を汲み、男たちの帰りを待つ、などという役割分担的固定観念は、秋の雲のようにもうすれて消え去ってしまいます。
「うちの亭主、今日、結婚式に行ったんだけどさあ、お祝いの袋だけ持って、中身は持っていかなかったのよね。ハハハハ。で、あたしがこれから帰って、魚を捌いて、亭主を追っかけるってわけ」
彼女は、見事な手際のよさで釣り道具を片付け、水を流して釣り座をきれいにすると、ヤッと防波堤から飛び降りて帰っていきました。
「また来るからね、ア、ハハハ」

寝不足の頭が、クラクラしました。