掬(すく)う

行く先々で わたしは掬う 照葉樹の森から湧きだす泉 山間(やまあい)に流れる小川 精霊たちのささやき 音もなく舞う 光の妖精 行く先々で わたしは掬う 渚の白い砂浜 静かに満ちる 海 イトマキヒトデのつぶやき 不知火の海に輝く 白い光 行く先々で わたしは…

破れ傘

三年間駐車場に置きっぱなしにしていた傘がひどいことになっていた。 握りから傘の頂点までの金属は錆び付いていて、動かない。開くのに三日かかった。布地は折り目のところがもろくなり、やぶけている。なんとか使えないかと、シールを貼ってみた。せっかく…

半径一メートル

なんのことかって? おいらの居住空間さ これなら座っていて手を伸ばせばどこでも届く 直径なら二メートル 足を伸ばして寝ることもできる 窓は南に一つ ドアは北側 窓際には小さな折りたたみ式座卓が一つ 座卓の上にはスタンド ノートが一冊 ノートを開くと…

夕日への道

夕日が海に沈むまでの ひととき 夕日に続く黄金の道ができる 君よ 夕日に続く道を歩け やり残したものは 夕日の向こうにある さあ ここに立ち 両手を頭の上でくみ ふかく ふかく 深呼吸 足は 地球の重心に向かい 目をとじる するとわかるのだ 君がこの地上で…

とうちきりんな頭の日本人へ

ただ、ただ、かなしい。 あなたたちは、本当に自分の頭で考えては発言していると思っているのかい。 いや、いや、その頭さえ、もうない。 ただ、ただ、かなしい。 ふかく、ふかく、かなしい。■李大統領、少女像撤去拒否…第2・第3設置も (読売新聞 - 12月19…

二人で街を

たまには 二人で出掛けようか 危なっかしく手をつないでさ 二十五夜の月が西に傾くころ 街は夢の中 夜明けまでのしばしの時間 通りの真ん中を歩こう どんなにどんなに悲しくても 二人一緒なら平気 どんなにどんなに疲れていても 二人一緒なら また元気になれ…

予言

枯れた土地を やせた子どもが歩くだろう レンガ色の太陽が 壊れた家々を染めるだろう 乾いた風が 怒りにまかせて吹き荒れるだろう それから さらに 多くの人が 白い風となるだろう 哀しみとともに 怒りとともに 足下で たくさんの屍の砕ける音 暗闇で 静かな…

あおいろの記憶

思い出してほしい きみが小さいころ 海はどんなだったか きみは川とどんなふうに 遊んだか わたしは海に生まれ 海と川で育った 海の深みの色は恐ろしい青で 小舟はその上をギシギシと進んだ 深い海の底で眠る龍が目覚めないかと心配した 川の向こうには やは…

抱きしめたくて

半月の月はきらきら西の空です あなたはつましい弁当を持って出かけ 今ごろ食べているのでしょうか 夜の校舎はさみしく広く そして なにより悲しく 半月の月はきらきら西の空です わたしは 抱きしめたくて 抱きしめたくて あなたを待っているのです

天草環境会議を終えて

沈殿するもの それは海辺に立って遠くの島と さらに遠くの雲と 雲を染めて沈む夕日と あなたをつつみ あなたをうながし とおい世界へあなたを誘う風よりも 少しだけ重い この光景の前に すっかり透明になったあなたの心に ゆらゆらと沈み あなたの歩みをたす…

雨ときどき放射能

雨の日曜日です 大量の放射能が東風にのって内陸部へと運ばれます 原発から南西の地域にお住まいの方 窓は開けないでください 雨には濡れないでください 暑くても長袖とマスクを着用してください 帽子もおすすめです それから新しいライフスタイルの提案です…

詩人よ

この世界の どこにも属さず ついに 何ものにもならなかった詩人よ 頑なに意思を貫いた詩人よ あなたがあなたの一生を通して 証明したかったものが なんであったのか 西の山にしずんでいく星の明かりのようにも かすかに 分かる気がする 言葉は無力だ あなた…

海と人間

久しぶりに海へ行った。半年ぶりになるのかもしれない。 去年の12月から、海へと足が向かなかった。3月11日を予感したわけではないが、海との間に「会話」が成り立たなくなったことは事実だ。 海との会話とは何か。知り合いの漁師は、「海は裏切らない…

さくら くらさ 【再掲】

むかし むかしも 交通事故はあった 馬に蹴飛ばされ 馬車にはねられて死んだ人は 結構いたのだ 車の登場は しかし 事故の確率をいっきに上げた あっちでぶつかり こっちでつぶれ それにひきかえ 飛行機は安全です 比べてごらんなさい 自動車事故の何百分の一 …

ばぁちゃんのチャーハン

ばぁちゃんは肉を食べない それでチャーハンにはチクワを入れる ほかに玉ねぎを刻む 色がきれいになるようにと ニンジンとピーマンを刻むばぁちゃんは中華鍋に油を入れる 弱火のまま先に飯を炒める それから 刻んだ野菜を入れて 野菜に火が通ったころを見は…

たくさんの命に

羽があったら 羽があったらよかったな おじいちゃんには透明な羽 トンボのようなね おばあちゃんは大きな黄色い羽 アゲハ蝶のようなね お父さんにはうすい空色の羽 ミンミンゼミのようなね お母さんは光にかがやく黄色の羽 花から花へ飛びまわる蝶のようなね…

愛は武装しない 愛は飾らない 愛は自らをさらけだす 愛は他者のためにある 愛は見返りを求めない 愛は奪うものではなく 愛はあなたが持っている 愛は共感でもあるし やさしさでもある さあ しずかに語ろうか 愛について

ふたり

あなたが悲しいとき わたしも悲しい あなたがうれしいとき わたしもうれしい あなたが笑うと わたしも笑う 昨日の悲しみも 今日のよろこびも 明日の不安も ふたりいっしょ 雨の日は二人でぬれ かがやく海は ふたり目を細めて 雨にぬれる木の葉のように 風に…

あつくしずかに語れ

君よ あつく語れ そして しずかに語れ 語り部のように 巫女のように よろこびを語れ 哀しみを語れ それから やさしさと 人の傲慢を語れ 君よ あつくしずかに語れ 真理が必ずしも正義ではなく 正義は真理ではない この世界の不条理を語れ 未来の王国について…

ゆっくり歩け

人生は短い だからゆっくり歩け 二月になれば 梅の花が咲く 水仙も花をひらく 寒かった一月も もう 終わった 凍った心もとけだす あなたよ 大事なあなたよ 人生は短い だから ゆっくり歩け

日記

じいさんは自動販売機で売っているあったかい汁粉が好物だ。 おれは、じいさんのところへ行くのに、汁粉を二缶買う。 「じいさん、生きてるか」 これがいつものあいさつだ。 たいていは寝ている。おそらく、一日二十四時間のうちの、二十時間は寝ている。何…

不評な子守唄

坊や ねむるな ねむれば 坊や おまえの父さん いなくなる 坊や ねむるな ねむれば 坊や おまえのかあさん いなくなる 坊や よくおきき よくみて 坊や 正しいことは とおらない 坊や この世は 悲しみ あふれ 幾百年と かわらない 坊や ねむるな ねむるな 坊や…

 スローな運動にしてくれ

わしはな ずっとここで暮らしてきた 何もかも わかっとる 最近 具合が悪かった 病院に行ったら 心臓肥大だといわれてな 体が ふうわ ふうわ する わしの たましいの半分は 地上を離れたのかも知れん なに そっでもよかと わしがいいたかとは もちょっと ゆっ…

あなたはわたしの名を呼んだ

〜恋する二人へ〜 あれはいつのことか 二人のあいだに 時が濃い霧のように立ちこめていたころ 静寂と喧騒とがめまぐるしく入れ替わっていたころ あなたはわたしの名を呼んだ だからわたしはきた そしてここにいる あなたのかたわらに

メダカの夏

雨が降り 雨はどんどん降り 田んぼは 池のよう メダカが泳ぐ 日照りが続き 日照りは容赦なく わずかに残った 熱い水たまりに メダカ このままでは メダカのイリコができちまう アヒルさんにお願いしよう みんなの意見が決まり フォイ フォイ フォオォイ アヒ…

やさしさ

あつい あつい やさしさ わしは今年67歳になるが ずっとこの路木川を見て育った 雨の季節じゃが どんなに雨が降っても この路木川が濁ることはなかと 見てみなされ 下流のこの橋から上に人家はなか 山に降った雨は 照葉樹の葉を伝い 山が吸収し 奥深い山の懐…

『信じる』

息子の部屋で わたしは1円玉と十円玉を拾って歩いた 粗雑に作られたザルから あらゆるものは こぼれおちた 先日 息子は都会へと旅だった 「なんとか やっていけるよね」 「ああ なんとかなるものだよ たぶん」 わたしは 条理を信じようと思う うながされるこ…

お嬢さん何を歌いましょうか

何を歌いましょうか 天使までが立ち止まるこの夕暮れ 海の片方に陽は沈み もう片方からは金色の月 あなたは帰るのも忘れて 恋しい人が海で死に とうとう自ら人魚になったお姫さまの歌 打ち寄せる波に踊る金色の砂粒の歌 ゆらゆら揺れるイソギンチャクと アオ…

たくさんの顔

父さん 人はいくつの顔を持っているんだろ 笑った顔でしょ 怒った顔でしょ 泣いた顔でしょ それから おいしいものを食べるときの顔でしょ ツトム君ておかしいんだ いつもぷんぷん怒ってばかり ちっとも笑わないし 一度も泣かないし なにを食べても同じ顔だし…