やさしさ

あつい あつい やさしさ


わしは今年67歳になるが
ずっとこの路木川を見て育った
雨の季節じゃが
どんなに雨が降っても
この路木川が濁ることはなかと
見てみなされ
下流のこの橋から上に人家はなか
山に降った雨は 照葉樹の葉を伝い
山が吸収し
奥深い山の懐を透って
澄んだ水となって路木川に注ぐ


わしらはな ずっとこの川の水で育ってきた
飲み水はもちろん
田んぼの米も 畑の野菜も
一切が路木川じゃった


わしな
この世の徳目の最上位は
やさしさだと思うがな
あつく あつく
幾世代にもわたって受け継がれてきたやさしさ
このほかにどんな宝があり得よう


川が わしたち人間に与える
あつい あつい やさしさ以上に