哲ちゃんの十五夜

庭にゴザをしいて
机を並べる
料理がのせられる
大皿の刺身が三つ
小魚をすりつぶして油で揚げたものと
ボラのフライの皿が三つ
ナスとタコの味噌炒めの皿が三つ


月が地上の雲からはなれ 顔を出す


鹿の生肉の刺身が差し入れられ
塩茹でのピーナッツがある
茹でた大ダコは今日哲ちゃんが獲ったものだ
今夜が月齢15日なのだと哲ちゃんはこだわる
漁師のキクさんが応じる
そんなこと言うたって 暦の十五夜は昨夜(ゆんべ)だったもね


月はいよいよ丸く
中天にのぼり
海からの風が吹き
残ったのは哲ちゃんとキクさんと
東京から来て初めて参加したキムさんと
おれだけになった
朝の4時半から網上げだけんね
12時を過ぎて キクさんが帰った
わたしもそろそろ失礼します
キムさんが言う
明日が早いので
こら 待て
酔った哲ちゃんが引きとめる
早いって何時なのよ
酔っ払いはしつこいのだ
9時に人に会う予定がとキムさん
なに 9時
哲ちゃんが大声で言う
さっき帰ったキクさんは4時半から父ちゃんと一緒に網上げして魚をえり分け市場に魚を運んでから風呂に入って朝飯を準備して9時といったらその朝飯を食べてほっと一息ついてお茶を飲んでる頃だ おれにしたってビニールハウスの中がどもこも暑くなる10時までが勝負だ
みなさんタフですね
あのね きみ タフとかタフじゃないなんてことはないのよ あの月が東から昇って西にしずむ それと同じこと
自然ですか
そう きみは頭がいい


このあとキムさんも帰り 残ったのは哲ちゃんとおれだけ
ごろんと横になった哲ちゃんからいびきが聞こえたのは何時だったか
月を見ながら寝た