賭け

夜の道を車で走っていたらお巡りさんが検問していた。当然、止められた。いかにも真面目そうな若いお巡りさんが近づいてきた。
「飲酒の検問です。これにハーしてください」ときた。いつものセリフだ。
「ハーするのはいいけど、その前におれと賭けしない?」
「賭けですか」
「だってさ、考えても見てよ。検知器の反応次第でおれは50万円を払うことになる。そんなのあんまり一方的だろ。そこでさ、アルコールの反応が出たらおれが50万円払う、出なかったらお巡りさんが50万をおれに払う。賭けの中身はこんなもので、いたって単純明快。さあ、どうする?」
お巡りさんが懐中電気でおれの顔を照らした。
「反則はやめましょう。おれの顔色見たってわからないよ」
おれはしょっちゅう海に行っているせいで、真っ黒なのだ。
「か、賭けごとは法律で禁止されています。そ、それに、勤務中に賭けごとなどできません」
「法律ときましたか。それでは、警察官が夜の道で飲酒の検問をするのは、合法だと思っているのかい。そこらの飲み屋を見てごらん。警察の飲酒の取り締まりが厳しくなってからというもの、どの店も閑古鳥が鳴いている。あんた、どう責任とるんだ。50万円くらいじゃすまないよ」
「う、上の命令には逆らえません」
「あんたのいう上って誰のことだい。課長かい、飲酒運転撲滅対策本部の部長かい」
「そ、それは、いえません」
「あのね、根本的に認識が間違っていることに気づかないの。あんたは公務員でしょ。あんたの給料は税金から払われる。その税金を払っているのは国民でしょ。その国民の安全と安心のためにあんたは働いている。夜の道で国民を不安がらせてどうするの」
「あ、あの、行ってください」
「賭けはどうするの?」
「し、しません」