夏の思い出

f:id:Kurosuke:20191229164330j:plain

 


あんたは原始人みたいね
半ズボンに上半身 裸
いつもサンダル履き
出かけるときだけ
だぶだぶのシャツを着て
お風呂は週に一回
シャンプーは月に一度
そして散髪は春と秋の二回
顔は洗わない

 

あなたは言うの
髪を洗うとき 眉まで洗う
髭をそるとき 鼻の下まで洗う
そんなあんたと45年も暮らして
一つだけ 分かったこと
あんたはこの世の規範とされることを
受け入れたくなかった
みんなが常識だと思うことを
受け入れたくなかった
なぜ?
規範や常識のなかに真理はないことを
いつあんたは悟ったの?

 

ずっと以前に あんたは言った
易しい道と難しい道があったら
ぼくは難しい道を選ぶと
だけど 問題なのは
わたしと出会う前に すでにあなたは選んでいた
つまり
あんたにとって 難しい道が
わたしと生きることだった
でも もう そのことについては言わない

 

あんたはついにお金と折り合えなかった
昨日 自分の預金通帳を持って
5万円に増えてたよ
うれしそうにあんたは言った
50万でも500万でもなく
5万円のあんたの預金通帳
世間的には それは無能という

 

ただね あんたの技術には感心している
ナイフ一つで作るあんたの竹トンボは
きれいだし よく飛ぶ
海で拾ってきた流木で作るテーブルや椅子も
わたしは大好き
料理を作るとき
あんたは調味料を計らない
醤油 適当 砂糖 適当 塩 適当
作るたびに味が違う
でも どれもおいしい
一期一会の料理だ

 

思えば あんたと歩き出したのは21歳の時だった
それから30歳になり 40歳になって
あんたの故郷の ここ天草に引っ越した
二人の子どもたちも大きくなった
わたしとあんたの空気の中で成長した子どもたち
わたしは子どもたちを誇りに思う
わたしとあんたの子どもたちを
ほんとに ほんとに誇りに思う