ウソ、あるいは政治

  約束には何の元手もいらない。
守る気がないから。

 
 「なあ、ハラジイさん。海に行ってこーんな大きな魚を獲ってこようと思うんだけど、海へ行くのに100円貸してくれないかなあ」
「そんな大きな魚が100円とは安いもんだ。ほいよ、もってけ」
 トオルは100円を持って海へと行きました。
 海辺では小さなイワシの子どもが遊んでいました。
 「おい、子どもたち。港の真ん中のあの岩まで競争しないか。一着には10円上げるよ」
 イワシの子どもたちは一目散に泳ぎ出しましたが、岩の近くで大きなスズキに食べられてしまいました。
 「おい、スズキ。あの岬の先端をぐるりと回って帰ってこれるかね。帰ってきたら50円やるよ」
 スズキは勢いよく泳いで行きましたが、岬を回ったところでマグロに食べられてしまいました。
 「おい、マグロ。おまえさんの方向感覚は飛び抜けていると聞いた。どうだい、目隠しをして三回まわって戻ってこれたら、100円やるが、やるかね」
 マグロは二回目からやばい、と思いましたが、約束は三回です。三回目の途中からもう、ふらふらと泳ぐだけです。泳いで、泳いで、とうとう砂浜に乗り上げてしまいました。
 トオルは、大きなマグロを運ぶために、リヤカーを借りることにしました。
 「リヤカーだけなら50円。運んでくれるなら100円だ。どうする」
 リヤカーの持ち主のシンゾウは、100円もらって運ぶことにしました。
 
 大きなマグロとトオルを見たハラジイは、これは夢かと思いました。しかも、リヤカーを引いているのは、昔、同じ釜の飯を食ったシンゾウではないか。おれがトオルに渡した100円は、そっくりシンゾウに渡った。でかいマグロのおまけつきだ。

 ハラジイの館では、今宵大パーティーが開かれ、久々にハラジイ節が響きます。
 「これぞ、政治。これぞ、マジック・・・・」と。