残暑お見舞い



カフェ・オ・ラ・オ・リ
 昔むかし、大学でフランス語をとっていた。授業中、フランス語の先生が語ってくれたことがあった。

「フランス人は、朝、ベッドでコーヒーを飲むのだ。朝起きたらまず、台所に立つ。寝巻のままだ。そこでコーヒーを沸かす。一方で牛乳を沸かす。沸いたら、こう目の高さに両方を持つ。右手にコーヒー、左手に牛乳だ。それを二つの大きなマグカップに注ぐ。こうやって、ドバドバと。これはたいてい男の仕事だ。それから、男は二つのコップを持って、ベッドに帰る。そして、まだ眠っている奥さんを起こすのだ。
"ボンジュール、マダム。“
いいじゃないか。最高じゃないか。これが、カフェ・オ・ラ・オ・リだ。ちなみに、ラは牛乳、リはベッドね」

 この先生、ワインに酔っているのか。
「あ、ワインならカルベのロゼにしなさい。グラスに注いだロゼの透明な赤を通して彼女を見る。いいねえ。もっとも彼女ときたら、グビリグビリと飲んじゃったが。それはそれとして。おい、何杯飲むんだ。おれがせっかくロマンチックな気分を味わっているのに。音楽は、やはり、シャンソンだな。エデット・ピアフなんかどうだ。
あたしゃ、浪曲がいい?
浪曲だったら日本酒だべ。それとも濁酒か。
おい、飲んじゃったよ。逆さに振ってももう出てこないよ。ボトルの口をなめるな、みっともない」