歳をとった看板屋

 ホテルが外壁の改装工事をすることになり、看板も一新することになりました。
 ところが、この看板の仕事を受けた看板屋さんが、五月の連休明けから体調を崩して入院する事態に。七月に退院はしたものの、とても四階建てのホテルビルの、屋上からさらに高い「塔や」に、ステンレスでできた浮き文字(立体文字)をとりつけることはできない。
おはちが回ってきたのは、これまで市内で勝手にやっていた三人。三人とはいっても、その状況はそれぞれ違っていて、最も堅実に看板屋をやってきたのはH氏で、次がU氏。もっともいい加減なのがぼくです。ぼくなどは、元看板屋といった方がよく、今は竹トンボ屋さんといった方がいい。


 朝の9時に集まり、まずは荷物運びです。ひとまず屋上まで運んだところで、もう全身から汗が噴き出しています。ズボンもシャツもビチャビチャ。
「とりあえず、休もう」
 で、休憩。
「おれなんか、二度熱中症になった」とH氏。
「水は少しづつ飲んだ方がいい。いっぺんに飲んでも効果はない」と、最近、山登りと山の上から飛ぶハングライダーにはまっているU氏は言う。
 屋上だというのに風がない。目の下には瀬戸の海と、むこうの雲仙普賢岳が熱気に揺らいでいるよう。
「仕事した方が気休めになるかも」
「そうね。午後は西日がモロだから」
 一同、同意して仕事開始。
 足場に立って、文字を線書きした紙をガムテープで壁にとめていく。壁はタイル張り。
「タイルの目地に穴を開ける。穴の径は4,3ミリ。それで、コンクリートネジは5ミリ」
 三人のなかでもリーダー格のH氏が説明する。
「一文字つけてみようか」とU氏。
 そうしようということで、文字のカバーを外す。浮き文字(立体文字)はチャンネル文字とも言う。弁当箱を思い浮かべてもらいたい。ご飯が入る弁当箱の本体をまず壁に固定して、文字カバーをかぶせて脇からネジ止めする。
 天草の「天」から始めた。線書きの紙に「天」の字を合わせる。目地に合わせて穴の位置を決める。いったん壁からはずして足場の上で5,5ミリの穴を開ける。それをもう一度壁に当てて、線書きの紙の上に印をつける。コンクリートドリルに径4,3ミリのドリルの刃をセットして、壁の穴開け開始。
 ところが途中で、
「おれ、頭がくらくらしてきた」とH氏。
「いかん。熱中症かもしれん。休もう」


 こんな調子で、一日で終わるはずが、二日かかって終了しました。
 昨日のことです。