クロスケ作品集

キョンキョンの話は、今回で区切ります。他にもキョンキョンが登場する話はあるのですが、それはまた、別の機会に回そうと思います。ここは希望的観測で、「またの機会」ということにしましょう。

したがって『クロスケ作品集』に入るものは、『レストランクロスケ』『台風の朝』『トントンパテルの話』『タコのロクの話』『ネコの居酒屋』ときて、『キョンキョン』ということになります。
今年のうちに「形」になれば、と思っていますが、もう8月だから、年明けかもしれません。
その時は、よろしくお願いします。

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次の日の朝、おれが起きたら、母さんとばぁちゃんが台所で並んでおむすびをつくっていた。四角いバットに出来上がったおむすびが並んでいく。不思議なことに、ばぁちゃんがつくるおむすびと母さんのおむすびの形がちがう。ばぁちゃんのは、少し平べったい丸形なのに、母さんのつくるおむすびは整った三角なのだ。
キョンキョン、起きたのだったらおにぎりに海苔を巻いてちょうだい」
母さんが手についた飯粒をつまんで食べながら言う。そうか、と思った。母さんのは「おにぎり」で、ばあちゃんのは「おむすび」なのだ。関東と九州のちがいかも知れない。
「なに、ぶつぶつ言ってるのよ。時間は止まってくれないわよ」
母さんは新しく茶碗にご飯をよそった。
「おっ、都会風と田舎風おにぎりだな」
父さんが起きてきた。
「たしかにな。『おむすびころりん』で、おむすびがころころ転がるのは丸いからだ。三角じゃ転がらない」
いつの間にか、じいちゃんものぞいている。
「そうでしょう。やっぱり、田舎と都会のちがいでしょう」
父さんは得意気だ。
「あのさ。関東と九州のちがいはどうかな。おにぎりは関東で、おむすびは九州とか」おれは言ってみた。
「それじゃ、『おむすびころりん』は九州の話か」と父さんがおれを見る。
「さ、それは、分からないけど」
「おい、そこの三人の男ども」
母さんの重い声が響いた。「今、進行している現実を見よ。見たら、現実に参加せよ」
「参加せよ、って、おむすびをつくれってことか」と父さん。
「さよう」
母さんは迫力がある。新手の武闘派だ。
「さよう、って。おい、オヤジ、どうする?」
父さんがじいちゃんに聞いている。しっかりしなよ。
「もちろん、参加させてもらおうじゃありませんか」
「わたしも手伝う。なにしたらいい?」
シン子も起きてきた。
「アハハハハ」とばぁちゃんが笑いだした。
朝七時、台所の外の柿の木でクマゼミが大音量で鳴きはじめた。暑い一日は、もう始まっている。