へのへの焼酎

へのへの焼酎の「黒ラムネ」というのがあるらしい。
「黒ラムネ」というからには、色は黒い。コップに注いでじっと見ていると、小さな泡が出てくる。それで、ラムネらしい。
原材料は、サトウキビらしいがあきらかではない。食品衛生法で原材料名の表示が義務付けられているが、ラベルにはこうある。
「原材料:天が授けしもの」。
徹底してお上にたてつくらしい。


その話をしてくれた友人は、「おれは飲んだ、というより、なめさせてもらっただけ」と言っていた。味はどうだった、と聞くと、「味というより、香りが絶品だった」と唇をなめた。
香りの焼酎ね、と思っていると、「一びんが20万円もするそうだ」という。
「なに、一升瓶が20万円か」
「そうじゃない。瓶は720mlだ」
「そんなものを買うやつがいるのか」
「いる。話によると、ひと月に10本の生産しかなくて、順番待ちらしい」
「ちょっと待て。720mlで20万ということは、72mlで2万円、1万円で36mlじゃないか。コップ4分の1しかないぞ」
「そうなるな」
「そんなにまでして飲みたい理由はなんだ」
「じつはな、この黒ラムネ、アルツハイマーの特効薬らしいのだ」
「特効薬というからには、実証例があるんだな」
「ある。何人もアルツハイマーから回復している。黒ラムネが壊れた脳の修復をしてくれるらしいのだ」
ううん、と考え込んでしまった。
実は、おれは家人から「アルチュハイマー」といわれている。腕が痛い、足が痛い、腰が痛いと言ってちっとも動かないのに口だけは達者だ。
「あんたはアルチュハイマーよ」と指をさされると、そうか、と思ってしまう。
「内緒だけど、おれも先月、注文した」と友人は言った。「ヘソクリを全部はたいた。なに、飲むと思うから高いのだ。なめるだけなら3年はもつ」


今夜は眠れない夜になりそうだ。