ニシムクサムライ
4,5日前の夕方、スーパーの前の歩道でお金を拾った。
そこはスーパーの入口のすぐ前で、左手に宝くじ売り場、右手にはたこ焼き屋がある。これから買い物に入ろうとする70歳過ぎのおばあさんとほとんど同時に見つけた。
「あ、お金」とおばあさんが言い、腰をかがめて拾ったのはぼくだった。千円札と五千円札が一枚づつだ。すぐに宝くじ売り場を見ると、三人が並んでいる。
「お金、落としませんでしたか?」と声をかけたが、三人とも首を振った。宝くじ売り場のおばさんに預かってもらえませんか、といったら、
「前にもあったんですよ。そして警察に届けて、その後で警察が来て、ありゃ、結構大変でしたわ」と言って預かろうとしない。
「お店の中のサービスカウンターへ行ってみてください」
仕方がないのでお金を持って店内に入った。おばあさんも一緒だ。
「6千円といったら大金ですもん」とおばあさん。
「ですね。うちだったら買い物3回分ですわ」
「あら、私んとこなら一回千円で6回分でしょうか」
おばあさんは腰が少し曲がっているせいもあって、頭がぼくの胸くらいしかない。
「どうです?この6千円で宝くじを買って、それを半分づつするというのは?」
「いや、いや。やっぱ、6千円は大金ですもん」
おばあさんは、悟りをひらいた坊さんのように動じない。
サービスカウンターの前まで来た。店員のお姉さんが忙しそうにしている。
「あの、そこでお金を拾ったんですけど」と声をかけた。
お姉さんは手を止めてやってきた。そして、カウンターの下から書類を一枚取り出し、
「これに名前と住所を書いてください。それから、もし落とし主が現れなかった場合、お金はどうされますか?いくつか質問がありますので、二択でお答えください」
おばあさんは顔の前で手を振った。仕方がない。ぼくが自分の名前と住所を書いた。そして、落とし主が現れなくてもお金はいらないこと、連絡は不要の旨などを書いて出した。おばあさんがにっこり笑った。
「実は、4月の末にも落し物があったんですよ。4月の末だから4月31日だったと思いますけど・・・」
「あの、4月は30日までですけど」
「??」
「ニシムクサムライ、は聞いたことないですか」
「??」
「ニは2月、シは四月、ムは6月、クは9月、サムライは武士の士、十と書いて一と書くでしょう、だから11月。で、これらの月には31日はないんです」
「あ、そうですか。なんか少しだけ賢くなった気がします。ありがとうございます」
そして、今日のことだ。
買い物を済ませて帰ろうとしたら
「おサムライさーん」と大きな声がした。
振り向くとあの時のお姉さんだ。
「あの後すぐに落とし主の方が見えました。ありがとうございました」
だって。