もう10年になるだろうか。
弁護士の市川さんが北海道から来た。路木ダム裁判のためだった。
裁判は、熊本地裁では勝ったが、福岡高裁では負けた。
その市川さんが来たのも4月だった。市川さんは、新緑の古江岳を見て言った。
「ブロッコリーのようだ」
そして、およそ30年前、カミさんは乳がんの手術をした。天草に引っ越してひと月ちょっとの時だ。これは5月の連休明けだったか。病院のベランダから鮮やかな新緑に包まれた山が見えた。新緑に向かって僕は祈った。
「山よ、緑の力よ。その生命の力を少しだけ分けてくれないか」