潮騒

 地域の雑誌(年一回発行)に『潮騒』というのがあって、ぼくもこれまでに幾度かつたない詩をのっけてもらった。

 先日、『潮騒』の編集委員をやっている知り合いから、詩を出してくれないかと電話があった。ぺージが余っているのだという。来週の水曜日くらいまでに印刷所に持って行ってもらうとありがたいと。

電話をもらったのが、先週の土曜日。今日は火曜日で水曜日といったら明日じゃないか。

 実はこの『潮騒』には、去年は娘が書いている。で、今年はカミさんが書いて、秋には原稿を送っている。
 
 ま、頼まれたからには仕方がない。明日、持っていくことにする。

 その詩。


   やさしさの王国


空には雲が浮かび
風が吹き
木の葉が舞い
木の葉は
一匹のアリの上に落ちる

きみは一部始終を見た
とうの昔にこの世界を離れた雲と
気まぐれな風と
春の芽吹きのために葉を落とす木と
突然の暗黒に戸惑うアリと

きみは立ち止り
そっとつまんで 木の葉を持ち上げる
アリはきみを見
きみはアリを見る
「ようこそ やさしさの王国へ」
アリはうやうやしく頭を下げる

「あなたのお席はこちらです」
アリは落ち葉の椅子に導く
「座ったら目を閉じてください」

目を閉じると浮かび上がる光景
小川のせせらぎ
無数の明かりは 流れにゆれて
かなたには 河口の風景
それから
渚にうちよせる波
海の向こうの山々にあふれる光
風が ささやきながら頬をかすめ
静かで やわらかな時のなかに

きみは 涙があふれるのを感じる

「いかがでしたか」
アリがささやく
きみは あふれる涙のままうなずく

「また お会いしましょう。
こんどわたしは コオロギかもしれません。
風に舞う 木の葉かもしれません」