ハッサク



 このハッサクの木は植えられてから40年以上が経つ。そして、律儀に毎年実をつける。
 かって、ここは温州ミカンのミカン畑だった。その以前は、サツマイモやスイカを栽培したりしていた山の段々畑だった。
 町役場に勤めていた父親が、ミカンの苗を植えた。50年以上も前のことだ。数年経ってハッサクの木を一本だけ植えた。
 その父親が63歳で倒れてからは、手入れをするものがいなくなった。やがて、温州ミカンは全滅し、今や、影さえもない。しかし、ハッサクだけはこうして残っている。

 すっかり人が踏み入れなくなった山は荒れに荒れている。

 私たちは何を残してきたのだろう?
 そして、何を残していくのだろう?

 この3月で89歳になる母親に、今年最初のツワブキのお土産。