⁂変化する点描画


居間に一枚の肖像画がかかっています
その肖像画は 細かな点描からなっていて
もうずっと見慣れたものなのです
家族はこの肖像画の下で暮らしてきました
赤ちゃんが生まれて
暑い夏が来て
雲が風に飛ばされ
金木犀が何回も香り
母親が大きな手術をし
渚にあふれる光とともに
祖父の存在がこの家から消え
雨がその痕跡を繰り返し消していきます


ザシキワラシをご存知でしょうか
子どもが10人、まぁるく手をつないで遊んでいます
数えてみると11人で
でも となりどうし知らない顔はなく
もういっぺん数えてもやっぱり11人です
さて そのなかの一人がザシキワラシです


肖像画のなかでは 赤や青や黄色の点が毎日少しずつ移動し
色相とかたちが変わっていきます
昨日とはちょっとだけちがう肖像画
でも
だれも変化に気づきません


夜が明け 雨が止み
赤ちゃんは成長しました

そして久々に帰った家で不思議に思うのです
「この肖像画は、いつから笑っていたっけ」