じいちゃんのそうめん 2

じいちゃんの話はまだ続く。
なぜ、四国で麺類の文化が栄えたか。
「さっき1637年といった。四国の麺の歴史は、それからさらに800年さかのぼる」
おれは頭がくらくらしてきた。
平城京が終わり、平安京へと遷都がなされるころだ。空海という坊さんがいた。この空海は、四国は讃岐の生まれだ。空海遣唐使として、唐へ渡った。唐というのは、今の中国のことだと思っていい」
おれがそうめんにはしを伸ばそうとすると、「聞いているのか」とくる。
「この空海が、当時の唐から製麺の技術を持ってきたといわれる。ところで、そうめんやうどんはなんでできている、そう、小麦粉だ」
じいちゃんは、箸で残ったそうめんをかき集めると、するすると食ってしまった。
「この、小麦を粉にするという技術の発明が世界中に小麦文化をもたらした。紀元前4千年ころだと言われている。つまり、このころ中国で石臼ができたらしい」
おれは、もう、目まいがしてきた。エジプトのピラミッドが現れ、遣唐使の船が荒波を越えていく。
じいちゃんがにやりとする。要注意の時だ。
「石臼は西に運ばれて、ヨーロッパでスパゲティやマカロニとなり、北に行ってはロシアのピロシキになった。もちろん、中国ではラーメンや餃子になる」


おれの名前は、京京と書く。じいちゃんの孫だ。みんなは「キョンキョン」と呼んでいる。
じいちゃんが名付けたのだ。どう読むのか、ほとんどだれも知らない。
京京は、京が二つだ。それで、「けいじ」と読む。いや、読ませる。


「今の話、先生にしてもいいぞ」
じいちゃんが片目をつむった。