干しダコは嗤う


暑い、もう、無茶苦茶だ。


朝7時、日の出と同時に婆さんが俺を吊るした竿を持って、国道を渡る。車の排気ガスを避けて、潮風の中で俺を干そうというのだ。
そうだ、俺は干される。太陽は、容赦なく俺の手足の先まで焦がす。
昨日まで、この先の海岸で海水浴に来た若い女の子と遊んでいた。タコと女の子、どうやって遊ぶんだ、って。いい質問だ。
いいか、海は俺の世界だ。女の子はおっかなびっくりやってきたお客さんだ。俺は女の子のつま先にかるくタッチする。
「きゃっ」
そして、スイと泳いで、女の子の目の前に顔を出す。
「きゃっ、きゃっ」
フ、フ、若いの、気をつけて泳げよ。


午後5時、婆さんがからからに乾いた俺を取り込みにきた。ちょっと足元がおぼつかない。腰も曲がっていて、俺を吊るした竿を顔の前にささげるように持っている。
婆さん、前が見えないじゃないか。
この時季、国道は車が多いのだ。夕方には行楽帰りの車がひっきりなしだ。
おい婆さん、しっかり歩け。
道の向うで、心配顔の爺さんが待っている。
もう、ひといきだ。