禍々しいもの


南の海から禍々しいものがやってくる。
反時計回りの巨大な渦巻きは周辺の海域から水蒸気をとりこみ、さらに成長し、北を目指す。
なんのために?と昔、父親に聞いたことがあった。
何のために台風は北を目指すのかと聞いたのだった。
父親は素っ気なく答えた。
「かき回すためさ」
「なにをさ?」
「海水をかき回すのさ。いいか、暖かい海水は上の方にある。一方、冷たい海水は海底近くにある。台風はこれをかき回してくれるのさ」
「それでどうなるの」
「海がリフレッシュされる。まんべんなく栄養分が行き渡る。海にとってはどうしても必要なものさ」

台風24号は今日にも沖縄を通過し、明日にかけて、「琉球弧」と呼ばれる島々を暴風域に巻き込みながら東シナ海を北上する。

今ならぼくは、この台風について自分の子どもに何と答えるだろう。
いまや、海は栄養分だけでなく、セシウムトリチウムプルトニウムといった放射性核種も混じり合っている。
禍々しいものは、さらに禍々しさを増した。