沈黙の海

 昔は朝早くから騒がしかったと、漁師の友人は言う。
 夜明けとともに先を争って漁船が港を出ていく。エンジンの音がうるさくて寝ておられん。そう言えば、おれも漁師だった。こうしちゃおれん。
友人は、その朝の光景を思い浮かべているのだ。


 もう今年で三年目になる。偵察船を出して見て回るが、チリメンの姿は見えない。
 みんなで話し合って、せめて抱卵しているあいだの一カ月でも禁漁の期間を設定できたらいいんだが、と。しかし、巻き網漁師の間でも意見は分かれていて、まとまらない。
友人は、熊本県の水産課にも行ってかけ合った。そこでの県の職員の言葉。
「チリメン漁が先か、養殖のエサの確保が先か、鶏が先か、卵が先かの話ですから」
不知火海全体の生態系が脅かされているのに、役所の人間の認識はこの程度のものだ。


『豊かな海づくり大会』が、全国持ち回りで毎年秋に開かれる。今年は熊本県での開催である。
http://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/77966.pdf