夫婦漫才

「危機管理」


「こんばんは。今日は、あけぼの老人ホームでの公演です。さすがに、お年寄りさんが沢山でございます。あらためまして、こんばんは」
「当たり前やろ。ここは老人ホームや。なに考えて挨拶しとるんや」
「そんなにがなるな。おれ、最近難聴と思うたら、わかった。おまえのそのがなりたてる声のせいや
「中途半端に聞こえるからいかんのや。いっそ、聞こえなくしたろか」
「おとろしいこというな。もし聞こえなくなったら漫才できません」
「ふっふ。そん時はな、耳なし芳一になるんや。琵琶持って語らんかい。
  祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」
「おまえ、そんな先まで予想してるのか」
「予想というか、予期というか、これから先の話ですな。危機管理の話ですわ。考えてみぃ、去年の3月11日になにが起こった?東北を襲った大津波と、加えて福島の原発事故。この国はだれも責任をとらへん」
「そら、そうだけど、それと危機管理とどうつながる?」
「あんたの脳みそ、カビ生えてるんちゃうか。連関や。すべてつながってるんや。将棋倒ししたことあるやろ。こう、将棋の駒並べていって、端っこのひとつをポンと倒す。すると、どや」
「そら、みんなパタパタ倒れますわな」
「それと同じことが今起こってますのや」
「起こってますのや、いわれてもな。それじゃ、どうすればいい?」
「完全な解決策はあらしません。けど、危機を分散することはできるんやおまへんか」
「危機の分散が、あんたの言う危機管理ということか?」
「そうなや。それもある」
「ほかにもあるのか?」
「食べ物の確保やな。それと、危機管理局を少なくても北海道に一つ、東北に一つ、関東に、ここは人口が多いさかい二つ、東海に一つ、中国地方に一つ、四国に一つ、九州に一つ、そして沖縄に一つや」
「で、その危機管理局はなにをするんだ?」
「まず、食料の備蓄。地震や噴火についての情報の収集と発信やな。それと船の確保も必要でんな」
「なんで船がいる?」
「ほんまに、もう、あんたの頭の中、見てみたいわ。たとえばこういうこっちゃ。災害はいつ、どこで起こるかわからん。富士山が爆発してみぃ、高速道路もダメ、新幹線も動かん。火山灰のせいで飛行機もよう飛ばん。そないなときのために船や」
「かしこい。そんなかしこいあんたがなんで漫才やっている?野田さんよりよっぽどかしこいじゃありませんか」
「不運ですねん。こんな亭主と一緒になったばっかりに」
「おれのせいか?」
「ほかにだれがいるというねん」
「わ、わかった。ああ、また耳が・・」