久米島4

 翌日、やはり雨だ。強くはないがぽつぽつと降り続けている。テレビの天気予報でも一日雨の予報だ。
8時。ドアをコツコツたたく音がする。息子だ。かれは今日、仕事の日だった。今日はおれたちを案内するために代わってもらった。彼はまた、12月におれたちを案内することを想定して久米島の主だったところを回っている。そして、その日が今日なのだ。
「これから朝飯を食べに行こうと思っていたんだ。一緒に行こう」
フロントで久米島の武蔵に軽く会釈して、食堂に入った。
「あの、一人分追加してもらえませんか」と、娘がきいた。
やはり久米島顔のおばさんは困った顔をした。
「すみません。朝食は人数分しか用意がなくて」
「あ、ならいいんです。お椀と皿と箸をお借りできますか」
ふむ。やはり、場なれしている。
三人分を四人で食べた。それでも充分な量だ。
保温器にコーヒーがある。お茶ばかり飲んでいる我が家族にとっては何よりうれしい。もっともおれは焼酎だけど。コーヒーを飲んでいて横にあるポットに気づいた。普通のポットがあるだけで、お茶のティーバッグもなにもない。
「たぶん」とおれが言った。「ポットの中身がお茶なんだよ」
その通りだった。沖縄でしか味わえない熱い「さんぴん茶」が入っていた。濃いジャスミンの香りがする。カミさんは3杯くらいおかわりしてた。
「さ、行こうか。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
娘が厨房に向かって声をかけた。なんの反応もない。洗い物をしているのか、水道の音がしている。まかせなさい、という顔でカミさんが前に出た。
「ごちそうさまでした」
声の質量がちがう。その声は食堂から厨房を突き抜け、久米島の武蔵がいる事務室までも届いたのじゃないか。さすがに舞台女優のカミさんだ。
おばさんが厨房から走ってきた。