久米島3

 三人部屋ということだったが、ホテルの部屋は思った以上に広い。風呂も大きいし、洗面所全体がゆったりしている。ベッドが二つとベッドの反対側には六畳の畳敷きの部屋まである。ほかに、テーブルとイスが窓側にあり、白い空っぽの冷蔵庫がある。
 窓からは港がすぐ下に見える。フェリーはこの港に着くらしい。今度来ることがあれば、フェリーで来たいものだと思う。
 鍵をフロントに預けて、出かけた。相変わらずパラパラと雨が降っている。とりあえず、久米島らしいものを食おうじゃないか。
 「久米島そば」というのぼり旗が目に入った。
 「どうだい、久米島そばは?」
 いいんじゃない。ところがのぼり旗は立っているのだが、店の電気は消えているし、扉にもカギがかかっている。時間は夕方5時半を少し過ぎたあたりだ。
 「仕方ない。先へ行こう」
 少し歩くと地元のスーパーらしきものがあった。入ってみる。まあ、いろんなものが置いてある。泡盛から惣菜、久米島そばの生麺もある。大きな沖縄豆腐もある。店の奥は肉屋になっている。やはり、豚肉が中心だが、隅にはヤギ肉もある。
 娘とカミさんは、お茶のコーナーにいる。おれは、そっと離れて泡盛を見る。久米島は人口8600人の島だが、酒造会社が二つある。25度、30度、35度、43度と泡盛が並んでいる。25度には「MAILD」の表示がある。マイルドでいい。おれは25度の泡盛「久米仙」を買った。
 スーパーを出てさらに歩く。商店街も終わりのころに、「お食事処 ゆき」の暖簾が見えた。店内に明かりもついている。ここに入ろう。
 「いらっしゃいませ」
 久米島顔のおばさんが水を持ってきた。久米島顔?目が黒い。小柄だが、力が漲っている。
 「おすすめはなんですか」
 「久米島は初めてですか」
 「そう、初めて」
 「久米島そばはどうですか。うちではゆきそばとメニューにありますが」
 「その下のソーキそばって?」
 「豚の軟骨を煮込んでいます。骨までコリコリと食べれます。うちは、麺は自家製麺です。スープも自家製です」
 ゆきそば二つとソーキそば一つをたのんだ。

 
 うちのカミさんは普段肉を食べない。カミさんの前にゆきそばが置かれた。上には厚さ1センチはある豚の三枚肉がのっている。それも三枚。どうする。カミさんは豚肉にかぶりついた。
 「あら、さっぱりしている」
 たしかに。スープも熊本で食べるトンコツとは全く違う。第一、油が浮いていない。あっさりしているようでいて、コクがある。ソーキそばの軟骨にしても箸で分けられる。
豚肉を扱う文化の違いか。
手打ち麺は、中華麺の太麺タイプだ。かみごたえがあって、ボリュームがある、かなり。
カミさんは全部食べ、おつゆまで飲んでしまった。
勘定を済ませて表に出ると雨が強くなっている。軒下を速足で歩く。驚いたことに行きがけには明かりがついていなかった店に明かりがついている。最初に立ち寄った久米島そばの店にも明かりが見える。6時半を過ぎたあたりだ。
久米島の夜はこれから始まるのだろう。