久米島2

  那覇から久米島までは、フェリーと飛行機と二通りの行き方がある。フェリーだと2時に那覇を出発して、久米島に着くのは夕方の5時半だ。第一、2時の出港に間に合わない。那覇空港でうろうろしていたら、久米島行の方は28番の階段を下りてください。バスが待っています。よく通る声のお姉さんだ。
 なるほど、バスは待っていた。
 30人くらいの座席は満席。恰幅のいい乗務員のお姉さんがてきぱきと用件を告げる。身長170センチはあるんじゃないか。太ってはいない。がっしりしている。それでいて、美人だ。痩せたおれなんか、首根っこを掴まれて入ったドアから放り出されそうだ。久米島に着くまではおとなしくしていよう。

 
 久米島空港では息子が待っていた。
 「おれの仕事場はここの2階だからね」
 そういって指を上に向けた。空港の2階にパソコン教室があるのだ。おおらかというのか、大雑把というのか、答えが出ないままレンタカーの窓口へ行った。痩せたお姉さんが応対してくれた。
 「今から明後日の10時ころまで借りたいんですが」
 「そうですか。なら、一時間いくらよりも一日いくらの方をお勧めします。その方がお得だと思います」
 「車は15番にとまっています。時計方向にグルッと回って、1時の方向に出口があります。あ、新車ですから、くれぐれも傷をつけないようにお願いします。それと明後日ですが、ここへ戻られたら車のカギはつけっぱなしにしてもらって結構です」
 なんというアバウト。なんという雑ぱくさ。しかし、要件はちゃんと伝わったじゃないか。車は新車であること、駐車場を時計回りに回って、1時の方向に出口があること。彼女はおれの免許証を見ながら書類をつくり、その間にこれだけのことを伝えたのだ。ふむ、やるな、おぬし。
 

 空港からサトウキビ畑を見ながらホテルへ向かった。
 「この道は通んない方がいいよ」息子が言っていた道に入ってしまった。その理由はすぐに分った。道のあちらこちらに車が止まっているのだ。いわゆる路上駐車。通りに面して、商店や食いもの屋があってだれもが自分の必要な店の前に車を止める。走れるのは中央部分だけだ。そこへ対向車が突っ込んでくる。タイミングの問題だ。見ておれ。おれは不思議とこんな場面には強いのだ。
 ホテルに着いた。カウンターの向こうの事務室に男性が一人。ニコニコしながら出てきた。髪を頭の後ろで一つに結わえている。細いが、敏捷そうだ。久米島の武蔵か。その彼が口を開いた。
 「あのー、お断りしておかなくてはいけないことがあります。この時季、当ホテルでは夕食を準備できません。朝食は大丈夫です。そこでお客様には、近くの食堂で食べてもらうことになります。まことに申し訳ございません。申し訳ないことがもう一つございます。お風呂のお湯ですが、熱くなるまでに時間がかかります。30分くらいは出しっ放しにしてください。触ってみて熱いことを確かめてからご使用ください。以上です。では、ごゆっくりどうぞ」
 久米島の武蔵は心底申し訳なそうに頭を下げた。