十三夜姫

十三夜の月を写真に撮ろうと駐車場に出て三脚を据えた。
三脚にカメラをセットして、さて撮ろうとするが、台風13号から変わった熱帯低気圧のせいで、次々に雲がかかる。シャッターボタンに人さし指をのせたまま、雲と月と、にらめっこが続く。
そんなとき、背後にかすかな明かりを感じた。煌々とした明かりではなく、かすかな明るさの気配だ。振り返った。なんとも変わった女性が立っている。
透きとおるような着物が光っている。顔も透きとおるような白さだ。
「なに?だれ?」
彼女は月を指さし、それからゆっくり自分を指した。
「わらわは十三夜姫じゃ」
わらわときた。声はかろやかで、草むらの鈴虫がしゃべっているようだ。
「じゃ、じゃ、十四夜姫とか、十五夜姫もいるのか?」
おれは混乱した頭で聞いた。
「いる」
彼女はうなずいた。
「じゃ、じゃ」おれの頭はもっと混乱した。「最初の、新月の姫は、なんていうのだ」
「初夜姫(はつやひめ)と申す」
鈴のような声だ。
「で、で、その十三夜姫がなんでここにいる?」
「一、二、三と数える間だけ、時を止めて差し上げようと思ってな」
彼女は両手を上げた。白い腕が天を指す。
「よいか、美しく撮れ。一、二、三」
おれはあわててシャッターを押した。


ふりかえるとだれもいない。
彼女の声の余韻だけが残っている。