暑い夜に。


夜の12時を過ぎても、室温は30℃ある。
旧式の扇風機は、ゼロ戦のプロペラみたいにぶんぶんと夢をはぎとり、南の空には16夜の月が、やはり汗をしぼっている。

今夜あたり、アカテガニの行進があるはずです。
 
アカテガニは、夏の満月の前後の夜に海を目指します。
河口域の土手の穴で暮らすアカテガニは、この時期、卵を抱えて海へと向かいます。
ところが、天草の場合、海の周りを国道が通っています。アカテガニは、海へ達するのにこの国道を横断しなけけばなりません。
わらわらとアカテガニが国道を横切ります。
そこを車が潰していきます。
それでも、アカテガニは次から次へと海を目指して渡り始めます。
さて、1000匹のアカテガニが渡ったとして、いったい何匹が海へたどり着くのでしょうか。
道路はアカテガニの死骸で赤くなります。

命ということを思います。
そして、人が生きることに重ねてみます。
アカテガニは、健康保険を持ちません。おそらく、「アカテガニ生命保険」もないでしょう。年金もありません。
やわらかな命は、何の覆いもなく、むきだしのままです。
 
今夜も、たくさんのアカテガニの命が消えていきます。

暑い夜に・・・