美についてのハエの抗弁

ステンドガラスに一匹のハエがいて
嗤っている
こんなものが 美しいだって
ばかばかしい
美しいものは何だ
美は 生(せい)だ
生きてあるから 美しいのだ
このことは
宇宙はリズムだ とおなじく 真理だ
野の花が美しいのは
生きているからだ
明日にはもうない と
知っているからだ
だから 輝く
その輝きこそ 美とは思わないか
永遠の美の定着
そんなことは 不可能だ
銅像のグロテスクさを思い出してくれ
名画の中の美女を思い出してくれ
作者が固定した瞬間に
美は輝きを失う


つまり こういうことだ
極微細の目でもって
おれの羽を見てほしい
窓いっぱいのステンドガラスより
おれの虹色に輝く羽の方が
どんなに精緻で
どれほど美しいか
人のつくったものを
神が創ったものの上においてはいけない
もっとも おれはかれこれ50年もここにいるが
いまだに おれの美しさに気付いた者はいないが