夏の海

芭蕉は「片雲の風に誘われて」旅へ出たが、ぼくは午後からの南風に誘われて海へと出かけた。
海へ着いて対岸の本渡干潟を見て驚いた。



大潮で日曜日ということもあって、広い干潟が人でいっぱいになっている。
大半がマテ貝を目当ての人たちだ。
たしかに、マテ貝採りは面白い。砂浜の表面をクワなどで薄くはぎとる。すると、だ円形の穴が現れる。穴に塩を入れてやると、マテ貝が顔を出す。そこをすかさず捕まえて引き抜く。
今年の四月に天草に赴任した高校の先生の一人は、マテ貝に夢中になっているらしい。


干潟を歩いていると、カニがポーズをとっていた。

歌舞伎の舞台でも見ているみたいだ。

こちらのガザミも後ずさりしてポーズだ。
これはバレリーナのつもりか。

おじいさんとすれ違った。
「どうですか」と聞いてみる。
「だめだよ。エイのやつが一晩で砂をひっくり返してしまうもんだから、何もおらん」
「エイが増えてる?」
「ああ、増えるもなにも人間より多いのじゃないか」
おじいさんは干潟を見た。
「このざまだ」

エイは、水中でホバーリングしながらヒレであおって海底の砂を巻き上げ、出てきた貝類を食べる。写真はその痕跡。