キョンキョンとじいちゃん2

 埼玉の団地を出るときは曇り空だった。公園のセミの鳴き声がうるさい。
池袋で山手線に乗り換えた。父さんと母さんは、どこか浮かない顔をしている。今日の空のようだ。シン子だけが新しいリュックを背負ってはしゃいでいる。
羽田も、やはり、曇っていた。
「シン子を頼むわね」
別れ際に母さんが言った。
「じいちゃんによろしく言っておいてくれ。こっちからも今夜電話するけど」
相変わらず父さんは遠くを見る眼付きで言った。いったい、どこを見ているのだろう。

 おれとシン子の乗った飛行機は離陸した。斜め上に向かってぐんぐん上昇していく。東京の街が、社会の教科書の写真のように見える。
突然、真っ白な雲に入った。シン子はおれの腕をつかんで、しっかり目を閉じている。
 白い世界が続く。永遠に続くのじゃないかと思っていたら、ポッコリと雲の上に出た。水面に顔を出した亀のようだ。雲の塊は視界の下にモコモコと果てしなく連なっている。ところどころに濃い灰色や薄い灰色の雲の塊が見える。
しばらくして、機内アナウンス。
「当機は、高度九〇〇〇メートルを順調に飛行しております。熊本空港への到着予定時刻は、定刻の一四時二〇分でございます」
 はるか下を銀色に輝く飛行機が通り過ぎていった。
 
 じいちゃんとばぁちゃんは、おれたちを迎えるためにもう、とっくに家を出ているはずだ。シン子は目を閉じたまま、眠ってしまったようだ。
 
 それにしても、熊本は暑い。飛行機から阿蘇の山並みが目に入ったあたりから、暑さも一緒にやってきた。着陸した飛行機がまだ、動いている。
 荷物受取所のグルグル回るレールの上に見慣れた黄色いリュックを見つけた。おれはリュックを背負って、シン子の手をとった。
 出口でばぁちゃんが待っていた。
 「いらっしゃい」
 ばぁちゃんの満面の笑顔がなつかしい。おれはぺこりと頭を下げた。
「来たか」と言って、じいちゃんはおれの頭の上を見ている。父さんと同じ眼付きだ。やっぱり、親子だ。
シン子は、ばぁちゃんの腰のあたりにほっぺたをすりつけている。まったく、すばやい。