月の夜の会議

「満月を見れるのは、30日に一度だ。ざっと数えて一年に12回。10年で120回、100年で1200回ということになる。今夜は、それぞれが見た満月の回数から発表してもらおうか」
「いちいち覚えちゃいないよ」
「おれもさ。1000回くらいまではなんとか数えたがね。あとは、たくさん、だ」
「あたし、125回目。だって、ちょうど10歳だもん」
「あんたはどうなのさ」
「おれは今夜で9999回目になる」
「ヒョー。さすが長老。お見それいたします」
「それだけ長いこと月を見ていて、なんか気付いたことはあったのかね」
「月は変わらぬ、ということだ」
「月は変わらぬ。はて、どういう意味さ」
「月は変わらぬが、われわれは変わる。われわれが朽ちても月は変わらぬ」
「永遠ということか」
「われわれにとっては、な」
「じゃ、月にしたら別の永遠があるの?」
「おそらく」
「あたしたち、ちっぽけなゴミみたいなものじゃないの」
「そうだ、ゴミだ。だが、そのゴミが月に一度、一様に月の光を浴びる。われわれは金色の光に包まれ、いっときだが月と一体となる。月の光は、また、別の世界があることを教えてくれる」
「別の世界か。魅惑的な言葉だな」
「さあ、月の光を浴びようぜ。ひと月の垢を洗い流すのだ」