「スローフード・スローライフ」

こんばんは お元気ですか
おこんばんは 寒うなりましたな
おい、お客さんに向かって「おこんばんは」はないんじゃないか
何でや
何でも「お」をつければいいというもんじゃないだろ。例えばだな、「坊ちゃん」というのはいいが、「お坊ちゃん」といったら馬鹿にしている言い方になる
じゃ、なにか。金持ちはよくて、お金持ちは駄目ゆうことか。そやったらも一つ「お」をつけて、おお金持ちは、どや
もう、いい。おまえと話していると、話がだんだんややこしくなる
そんなに簡単にリセットしてもろたらあかんやんけ。近頃の大人と同じことになりまっせ。都合が悪くなると「リセット」、失敗すると「リセット」や
しかし、おまえ、リセットなんて難しい横文字、よく知ってるなあ
アホいえ。いまどき、幼稚園の子供でもしっとるわい
安部さん見てみい。郵政民営化造反組もリセットやんか
安部さんといえば、この国の首相じゃありませんか
そや、首相だろうとなんだろうとリセットはリセットや
鼻息荒いな
いや、今日のテーマはスローライフという横文字言葉なんですが
なんじゃい、おまえのいうスローライフちゅうんは
そんなに噛みつくなって。あ、分かった。今朝、おかあちゃんとけんかしたな
ちがうわい
猫がおまえの布団にウンチした
よ、よう、分かったな。・・・当たりや。うちにな、オコンゆうてかわいい猫かってますねん。この猫、ふだんは庭の土ほじくりかえして用を足してます。ところが、今朝、外はどしゃぶりの大雨や。どうしよう、どうしようってうろうろしてはる。おれ、薄目開けて見てましてん。するとな、オコンは、よっしゃここしかない、意を決してまっすぐにおれの布団に飛び乗ったんや。
何でおまえの布団なんだ。おまえんとこは嫁さんも息子さんも、娘さんも枕並べて寝ているだろう。
民宿の大広間みたいな言い方すな。まあ、いいか。そいでな、オコンのやつ、おれの布団に飛び乗ったとたんにウンチングスタイルや。で、オコンのやつ、おれの顔見ながらニッと笑うんや。ああ、すっきりした


いいなあ
どこがいいんじゃ
なんか、おまえ、もろスローな生活してるんじゃないか
そやから、おまえのいうスローライフちゅうもんは、なんや
「スロー」というのはゆっくりとか遅いという意味ですが、ま、これは「スローフード」から説明した方が分かりやすいかもしれんな。いわゆるアメリカ式マグドナルドなんかに代表されるファストフードに対して、そうじゃなくてもっと伝統的な食事を大切にしようじゃないかと、イタリアで生まれたものなんだ
ほう、アメリカ対イタリアですかいな
おい、おい。これは国対国の問題じゃない。考え方、生き方の問題なんだ。アメリカだろうがイタリアだろうがフランスだろうが、関係ない。スローライフに関心をもつ人は世界中にいるんだ
おまえもその一員か?
一員か、って、そんな秘密結社の一員みたいにいうな
大江健三郎ふうにいうと「志願スローライフ人」か
どうしてここで突然大江健三郎がでてくるんだ
ハッハ、気にすな、ワトソン君
気にするなといわれると、よけい気にする
そんなら、宮沢賢治ふうに「イーハトーブ協会人」やな
ああ、もう、おまえと話しているとまたややこしくなってくる。どこまで話したか忘れてしまったじゃないか。
忘れたってよろしいがな。どうせたいした話やおまへんやろ。教えたろか、イタリアや、スローフードがイタリアで生まれたいう話や
おまえ、なんもわかっとらんような顔してよく覚えてるなあ。そうだ、イタリアの話だ。実はおれな、スローライフについて勉強しようとイタリアに行ってきたんだ
ほう
やっぱり本場はちがいますよ。ブーンと飛行機が空港に着く
さあ、着きましたで
輝く青空、白い雲、イタリアだ
青空に白い雲、なんてどこでもあるやんけ
空気がイタリアなんだ。ああ、このイタリアのにおい
スパゲッティ屋の前ちゃうか
茶化すな。それから喫茶店に入ってコーヒーを注文する。「キャッフェ、ワン」
なに?
だから「キャッフェ、ワン」
それで通じたんかいな
カウンターの隅でこっちを見ながら相談してたな
それでコーヒーは飲めたんかいな
待つこと3時間。だんだん腹減ってきた
そりゃ、腹も減るやろ
そこでせっかくイタリアに来たんだ。本場のパスタを食べようと思って注文した
どないゆうて注文したんや
ナポリタン、ワン」
それで食えたんかいな
待つこと3時間。なんせ、スローライフの国だからな。いやあ、いい勉強になった。スローライフは腹が減るんだ
アホいえ。言葉が通じんだけやんけ。それよか、スローライフいいながらなんで飛行機で行くんじゃい。博多から海へ飛びこまんかい。済州島で休んで、釜山まで泳がんかい。そっからシルクロードを逆に辿って三蔵法師の道、歩かんかい
そんなことしてたら帰ってこられんだろう
帰らんでもいいやんけ
そんなにあっさり言うな
おまえ遣隋使や遣唐使の話知ってんのか。昔な、学問しようと危険を覚悟で海を渡ったんやで。2回に1度は難破するんや。確率50パーセント。それでも行きよる。
えらいなあ
それに比べたらおまえはどや。スローフード勉強してきますゆうて、飛行機でブーンや。根本的におかしいとおもわへんか
そらまあ、そういわれると、そうかもなあ
だいたいな、たまにはファストライフしてみたいおもても、スローライフしかできへん人間が、世界中にぎょうさんいてはるんやで。いいや、そのスローライフさえできずに、今日食うものさえない人たちもぎょうさんいてはる
それで、何が言いたい。
怒れる漫才や
幻想はやめようちゅうことや。幻想は自分から出発して自分に帰ってくる。つまり、自己完結の世界や。自己満足ともいうがな。
じゃあ、どうすればいい
想像力や。想像力こそが、認識と希望の翼を広げることができるんや。
で、おれはどうすればいいんだ、
哲学する漫才や
一切を捨てるんやな、ワトソン君。ゆうゆう暮らせる年金もらって、スローライフゆうのはあんまりや、ゆうてんのや
そか、じゃ、君にやるわ
そか、そか、おおきに、ワトソン君。君がそういうの待ってたんや
おい、おい、待ってたんや、ってなんだ
まあ、気にすな。君とおれとは同級生。親友で漫才仲間やないか。水くさいことゆうな。
それよかな、おれもずっとスローライフ考えていたんや。そして、究極のスローライフを見つけた
見つけたのか、究極のスローライフを。で、それは、なんだ
ロシア民謡の「一週間の歌」知ってるか
糸巻きがどうとかいう歌か
知らんな、ワトソン君。この歌にスローライフの極意がある
今度は極意か
一週間の歌、始まりはこうや。
「日曜日に市場に出かけ、糸と麻を買ってきた」
買ってきた
「月曜日にお風呂を焚いて、火曜日にお風呂に入り」
ずいぶん優雅だなあ
「水曜日にあなたと会って、木曜日に送っていった」
いいねえ
「金曜日は糸巻きもせず、土曜日はおしゃべりばかり」
糸と麻はどうなったんだ
そんなこと知らん。そいで、結論や
「恋人よ、これが私の一週間の仕事です」
なんもやっていないじゃないか
アホやなあ。これがスローライフの極意なんや。さ、いっしょに歌を
♪「日曜日に市場に出かけ・・・・・」