サルトリイバラの実が赤くなった。

 九州ではカカラと呼ぶ。多分。

 しかし、天草ではぼくの父親の世代までは「クァクァラ」と呼んでいた。天草では、「か」は、「クァ」と発音した。
ここでは、ずっと運動会は運動クァイ」だし、会社は「クァイ社」だった。

 もう一つ、家族の誰かを亡くした人に向かって言う悔やみの言葉に、「とぜんなかなぁ」とか、「とぜんなかごつなってしもうて」というのがある。「とぜん」は、「徒然」だろう。「徒」は、宇宙の中での孤独を意味する。『徒然草』を思い出してほしい。
 さらに天草では、「お」と「を」の発音も最近まで明確に区別していた。さらにさかのぼれば、「え」と「ゑ」の発音だって区別していたかもしれないと思う。

 離島だった天草は、言葉のガラパゴスだったといえるのかもしれない。

 スミレの花が咲き始めた。
 ここへ来るまではスミレは春に咲くものとばかり思っていた。ところがどっこい。スミレは11月にも咲いて、翌年の春にも咲くのだ。