知の復権

   眠ってから見る夢は
   起きてみる夢よりも真実に近い


おまえはわたしに問いかける
「知とはなにか。そして、だれのためのものか」
わたしは答える
「知とは、わたしとこの世界をつなぐ橋であり、わたしの存在を証明するもの。そして、知とは、世界の8割の弱者のためのもの」
「そうだ。その通りで、そうあるべきだ」
おまえはわたしにささやく
「どうだ。おれと組んで、知の復権に残りの人生、ささげないか」
「残りの人生をささげる、とは大げさだな」
「割れた卵を想像してみたまえ」
「割れた卵がどんな意味をもつ?」
「割れた卵は元には戻らない。卵焼きか、目玉焼きか、カツ丼をとじるくらいだ」
「それと知と、どんな関係がある?」
「つまり、知は更新され、受け継がれなくてはならない。ヒヨコは卵から生まれる。しかし、割れた卵から生まれるものはさっき言ったとおりだ」
「卵としての知は、ヒヨコを内包し、ヒヨコはまた、知を内包する、と」
「そうだ。なかなかいいぞ」
「こういうことだろう。現在、卵としての知は、せまい用途に限定され、その本来の役割が認知されていない」
「それだから、われわれの認識には大きな誤りが生まれる。福島の原発事故からなにも学習しないままに、大飯原発の再稼働を決める。野田は「わたしの責任で」といったが、まったくわけがわからん。せめて、首相在任中の、とことわりをつければ少しはかわいいところがあるが、しかし、それも一瞬の唇のゆがみにしかならない。野田は、責任という言葉を理解していないし、深く考えたこともないのだろう。自分だけの勝手な解釈で言葉を発し、その場をしのいでいる。たとえ、野田が、百万回腹を切ったとしても、「責任」は果たせない。責任は、人類に対しての責任であるし、地球に対しての責任でもある。風前のともしびの、民主党の代表にとれるようなものではない」
「言葉が軽くなっているのか」
「それもあるが、白昼の夢に逃げようとしているのだ」
「つまり、幻想ということか」
「そうだ。幻想は、起きて夢見る「わたし」だ。その中心には、必ず、わたしがいる。こんなものはいくら追いかけてもつかまえることはできない、永遠に」
そういって、おまえは歯のない口を開けてハ、ハ、ハ、と笑う。
「決心がついたら連絡してくれ」
おまえはわたしの夢の中に消えた。